『ナイン・ストーリーズ』読了。『ライ麦畑〜』は読んだことがありません。なんちゅーか「せいしゅん小説」ってくくりに入る古典(とか純文学とか)ってキライなんですよ。読まず嫌いだけど。

「バナナフィッシュにうってつけの日」
こ、こんなんありか?!ありなのか?!シーモアさんは他の長編にも登場してるということで、そっちから読めば何とかなるかもしれないけど、とりあえずこの短編だけ読んだ印象は「わからん」。わけわからんというか、もうそれ以前に「読めてない」。作者が意図したところなど読みきれるはずもないし、作者が意図したところ以上のものを読んでしまうのが読書の醍醐味だとは思うのだけど、それはあくまで「読んだ」時に汲み出したものについての話であって、何一つ汲み出せていないというのは大変に問題なのではなかろうか……。なんだかもう「読み方が解らない」のセカイ。
バナナフィッシュは一部で有名なエピソードだけれど、初出は何処なんだろう。この作品中では「見ると死にたくなる魚」ではないらしい。多分。
「コネティカットのひょこひょこおじさん」
解説によると、「最初から七番目まで同じ主題の絶妙なヴァリエーション」ということらしい。嘘つけ。男前なおねーさんが、母親を慕う子どものように泣いているラストはなんだか切ないなあ。
「対エスキモー戦の前夜」
いやー、笑った笑った。簡単に言ってしまえば「無神経な友人に清算を迫るが、友人の兄がいい男だったので縁切りを中止」ってことなんだろうけど、なんとも絶妙。いい味出してるわー。おかしい、エピソードとしてはいかにも類型的なのに、見たことの無い変さ。よく天日干しにして原材料がよくわからなくなってしまった干物を、奇妙な味に首傾げつつ食べきった後に、実はあれ食べ物でもなんでもないんだよね……と知らないところで噂されてしまったような気分。
「笑い男」
ああ、これならわかる、これなら読み方を知っている。高校のときに現代文の教科書に載っていた、志賀直哉(志賀直哉だよな?ものっそいうろ覚え)の作品に似ている。あれは、訓練中の兵士の「人間的」とはかけ離れた姿を見るのと、その時食べるつもりでいた鴨の姿とが重ねあわされた作品だった。感想とかそれがどういうことなのかとか、そういうことはさっぱりわからないけど、これは多分こういう感じ、という程度にならなんとか読めた。誰かこういうタイプの小編の読み解き方を教えてくれないものかしらん。
「小船のほとりで」
つまり、主題というのは「希望」ということでいいのかしら。この辺りから漸く理解が追いついてきた感じ。「コネティカット〜」と「対エスキモー〜」はこれと同系ですな。どうも俗っぽくて類型的なものの方が自分の好みに合っているようだ。さすが村上春樹の全作品が理解不能なだけあるぜ自分。
「エズミに捧ぐ」
これ、エズミがめちゃくちゃ可愛いのな。萌え萌えですよ。まさかサリンジャーも日本のオタクが「エズミ萌え〜」などと転がりまわっているとは予想だにするまい。耳までの金髪に迷わず「前髪は目の上直線な」と決めてかかった阿呆。
で、前半エズミの愛らしさにのた打ち回って、もう理解できなくてもエズミ可愛いから(・∀・)イイ!!や、とか腐ったことを考えていたのだけれど、神経症になった主人公にぐあーと歯軋りし、手紙を開いてからラストまでのくだりにえっらい泣かされた。サブタイトルに「愛と汚辱のうちに」ってあるんだけど、こんなお題でこんなものが出てきてしまうサリンジャー恐るべし。
「愛らしき口元目は緑」
電話口での会話のみでここまで描き出されるストーリーがあろうとは。ところで、帰ってきた奥さんって誰なんですか?妥当な読みとしては理不尽あるいは幻覚あるいは自殺の示唆だと思うんですが。
「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」
いつも思うんだけど、作中人物が物凄い大嘘をついた挙句、まったくさっぱりなんの「怖さ」も感じないまま、だまくらかした人の前に現れて、その嘘を突き通そうとするのって凄いですね。絶対出来ないって、無理だって。一体その度胸と危機感のなさと如才なさは何処から出てくるんだ……。職業としてそれを学習したわけでも訓練したわけでもない人間が、やすやすと実行していることが多いのは、フィクションじゃないと無理だからなのか、これくらい実際にはありがちだからなのか、どっちなんだ。
嘘ついて自分を突っ張ってみたけど、ちょっとした事情から年相応の決着を見て日常に帰るという、これもまたわかりやすい展開。細部はかなりありえないんだがナー。
「テディ」
うわあ。

新潮文庫は翻訳者が安定していいのばっかりですね。つか、訳者は野崎孝なのか。それなりにいい訳をするなと思ったら。野崎は具体的に翻訳作品を上げろと言われても出てこないけど、名前を聞いたらわかる程度には俺の中でメジャー(はっきり名前と作品が一致するのなんて福田恒存くらいだ)。「A Perfect Day for Bananafish」を「バナナ魚日和」って訳すセンスだったら多分理解できなかったと思うわ……。野崎に78点。

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