古橋秀之、アスキー・メディアワークス。
単行本ハードカバーですが、書籍として扱われていないので一般書店では買いにくい困った本。アマゾンで取り扱いがあるので、それが一番手っ取り早いかも。

同タイトルの文庫版を1巻とする、未完かつ未刊の2・3巻、の3冊分を1冊にまとめた「完全版」。

何かに熱狂したことのある人は幸せだ。つかの間幻のように立ちあらわれる、熱中のさなかに見る真っ白な光のようなもの、を見た人の物語。それはこの作品中ではゲームに乗ってあらわれたけど、小説にだってあらわれることはあるし、むしろそれはありとあらゆるものに乗っかってあらわれてくるんだぜ。
それを確かに切り取ってここにおさめてみせた一品。いいや、青春小説って言っちゃえ。
われわれの青春がたまたまゲームだっただけなんですよ!

うえーたまらんなこれはほんとたまらんなかっこいい。そしていとしい。早すぎたとも言えるし今では遅すぎるとも言える。

好き好き大好き一行ごとに愛。ていうかもう一言一句何もかもが好きなんですがどうしたらいいですか。ほんとに一単語一文字ごとに好きなんですけど。生理的に好ましいツボにどんぴしゃりな文体。まーしかもするするっと変幻自在にうめーこと。
ただ2と3はとても「ラノベ」しててありゃ、ってなった。会場の沸き具合が「どわ~」とか。

97年かー、はー。そういえばゲーセン通いましたね!13年前だなんて嘘のようだ。
主人公とそして作者が見る、抜ける青空がわたしにも見えるような気がします。見たことないのにな!
あの夏は暑かった。たいそう熱かった。
わたしのようなぬるゲーマーですら連れてってくれるのだから、格ゲーにのめり込んだことのあるひとにはぜひとも読んで欲しい。
(ある種のオタクにとって格ゲーは必須教養であることよなー。)

しかしこのひとこの頃から勁だなんだーってやってたのか。「ケルベロス」読んだあとだとちょっと笑ってしまう。これがああなりますよと。化けすぎ。
ちょうどゼロ年代SF傑作選で「スラムオンライン」の番外を読んでからだったのでタイミングよかった。これはもうそっちも行くしか。

--------------
またしてもメディアマーカーのメモコピペ。さらっと上っ面を撫でただけでこれなので、本気で書いたらすごい量になりそうでやめた。
廃園の天使Ⅱ
飛浩隆、ハヤカワ文庫。

手元に単行本あるのに買わずにはいられなかった。そういう一品。逸品。
「魔述師」の残酷さたるや美しさの極致ですことよ!がつーん、と殴られるどころか胸のど真ん中にふっとい釘(釘?もう鉄柱だろそれ)を鉄槌でもって叩き込まれる気持ち。
このどうしようもない一回きりの「私」を生きるにさてどうしたものかなー、記憶か、そうだな記憶だな、「私」の意義を問うたらさしあたりの回答として「記憶」は上々の部類じゃない、と「記憶」の大切さについて物語をはじめておきながら、ボーイミーツガールのどん底に「それは君らには残されないものだ」とぶったぎってゆくあの情け容赦のなさに涙が出ます。あの夏とジュリーを下敷きにしないとこの気持ちはわからないと思うので人にすすめるためにはもう一冊先に読んどいてもらわないといけないのがハードル高い。くそう。
阿形渓は化け物だけど好きなタイプ。逆に安奈は怖い。すごい苦手な怖さ。初読時には阿形渓はそれほど化け物かなー、世にも美しい安奈を欲しがるなんて、そりゃあその叶え方はすごかったけど欲望自体は割りと平凡じゃないかしらー、とか思ってたんですが今回読んで気がついた。
「クローゼット」の中で触れられてたくだりによれば、現実世界のリスボンのコンサートの前に物理世界の安奈はぎったぎたに損壊されて死んでるわけで、オリジナル安奈に何したんだ阿形渓……!
あと「蜘蛛の王」の「父」はこれたがねでいいのかしら?ずっと気がつかなかったけど、食事と口の封鎖はそういうくくり方ですよね?あとカスタムメイドな蜘蛛はガウリから譲られたものだろうし。
解説の引用の引用ですが「ジェンダー的、フェミニズム的言説について思いをいたすこともなかった、というか一顧だにしなかった」は、さもありなん。そりゃそうだろうよそりゃそうともさ!むしろ倒錯の形としては類型的というかややアナクロですよね。そこに焦点はないんじゃないかなー。
「カワカマスの野蛮」すばらしい。これ紙に印刷された文字列なんだぜ?

しかし日本のSFは細部の変態ぶりがどうしてこんなことになった的に無茶ですんごい好みです。やっぱ日本語だよね!

と書いてるところでまた訃報。うあー。ありがとうございました。

-------------
メディアマーカーのメモこぴぺ。
横着を躊躇しない。
アスキー・メディアワークス、電撃文庫

牧野修の名前を電撃文庫で見ることになるとは、夢想だにしなかったです。目を点にしつつ確保。まさかの邪神ネタに盛大に吹いた。なんですか最近のラノベは邪神大流行なんですか、と思ったけどこのひとの場合流行と関係なくこうなんだよな……。
「邪神法人」という、人間に憑依させた邪神に法人格を与えるトンでも設定。既刊を読んだことがあるひとならいつ踏み外すかとひやひやしますが、いつものえげつなさ・グロさはなりをひそめて、絶妙な「ラノベ」のラインぎりぎりを滑ってく。
しかも泣かせる話・青春バカ万歳なんだぜ。面白かったです。

しかし終盤、敵に追われて逃げる辺りが携帯小説みたいになってたのはとても残念でした。何故前半の文章でそのまま行ってくれなかったか。
角川ホラー文庫の、携帯小説再録のあれにがっかりした人も、ここで脱落しないでこらえて最後まで読んで!ラストは持ち直しますので。
そういえば今月だか来月の新刊予定に角川文庫で新作あったけど、また携帯小説の再録なんでしょうか……。

みっしりした牧野修が読みたい。まだ買ってない既刊あさってこよう。


-------
メディアマーカーのメモに書いた感想。微妙に手を入れつつ移動させてきました。
ファミ通文庫、田尾典丈

やたら上手い。文章もこなれてて構成もきっちりしてるので、新人?デビュー作?マジ?と思ったらゲーム業界で仕事してる人でした。さもありなん。
最近、エロゲをはじめとするゲームのシナリオライターのラノベ参入がすごい多いなー。
ギャルゲの世界・設定を現実にやったらどうなるの?→そりゃ無茶なことになるに決まってる、という話。
投影された設定と現実の間で起こる矛盾や齟齬に突っ込んでくメタ系展開かと思ったら、現実によって侵食されたシナリオ展開をハッピーエンドに持っていくべく(平凡な)主人公が力いっぱい努力する話だった。
ラノベを読んでいると言うより、「ギャルゲを現実に投影しちゃったという設定のギャルゲをプレイしてる」という気がします。小説の中で更に分岐がありそうな、このラストもルートのひとつに過ぎないと言うような。
何せ攻略対象が姉・妹・幼馴染・学園アイドル・転校生と5人もいるのに一本シナリオで1冊中に全員攻略という状況なのでいろいろはしょられてる部分もありますが、スピーディーで悪くない。個人的にはもうちょっと丁寧にして欲しいですが、だらける可能性も否めないのでこれはこれが最善手かしらん。
各キャラの個別ルートがありきたりすぎて吹いた。

ゲーム内で描写されていない部分でもシナリオが進行していたり、現実にねーよという設定がスルーされなかったりと、二次元を三次元に持ち込んだら食い合うよ、むしろ現実に食い殺されるよ、というあたりの描写が非常にスリルに満ちていてよかった。
逆に言えば、それ以外はお手本のようなハーレム系ギャルゲ展開&熱血ラノベ展開だったので、えぐい趣味の持ち主には物足りない。二冊目発売に合わせて接収したので次行ってみよう。
アホ過ぎる。意味分からん。愛してる。
やるならこの人しかいないとは思っていたけど、実際ローマ法王ってバチ当たり過ぎるだろwww
と思わず語尾に草も生えるというものです。
法王を選ぶ会議が麻雀になってるし、教皇って表記すれば許されるってものじゃねーぞ!ww
と思わずいつもの調子で書いてしまうというものです。
天地創造の七日間で大三元とか発想がおかしい。

と思ったら第四帝国きたこれ。想像を絶するとはまさにこのこと。
あれに「シベリアンエクスプレス」っていう当てかたは脳の配線がおかしくないと出てこない。超あこがれる。
イカサマ核攻撃とか人知を超えました。

プーチンがいちいち格好いいのはなんでだ。
浅井ラボ、ガガガ文庫

タイトル長っ!
発音できない書店からの移籍後、ついに出ました実に4年ぶりとなる、完全新作長編。
でも発売直前に延期のうえ、4巻に続く。
4巻が発売されないという鬱展開だけは勘弁して欲しいものです。
以下ネタバレを含むいつもどおりの箇条書き感想。

・文章はすっかりガガガ版で統一されてしまったようです。このままアサルトが出たらどうしよう……。やめて、あれはあれでひとつの完成形なのよ!
・誤字脱字のたぐいは激減。でも、ところどころ「あれ?」と思うような箇所が。折込カラーのアーゼルが、あの不幸っ子に見えてどきっとした人全国で何人くらいいるだろう。
・スニーカー版から時系列がずれてきて、パラレルワールド展開みたいな様相を呈してきました。個人的な予想としては、短編そのほかの再構成+新規短編or長編で作中時間をあと1年経過させてから鬱展開と見た。
・このまま全然違う方向へ展開しても、それはそれで楽しい。
・今回のワーストは、新キャラの虐殺勇者。反省して立ち直った割りに、真っ先にすることがそれか……。女口説いてる場合じゃないと思うの!
・それもある種の思考停止に思えるので、4巻でハイエナのごとき「思考する人びと」に食い殺されてしまえばいいと思うよ。
・ワースト2位は主人公とその相棒ペアでした。変態はいいけどアホはどうかと思う。主人公はいつもどおり最低で安心しましたが、どうして恋人のことになるとなけなしの美点が全部吹き飛ぶんだろう。不思議。
・MVPは正義超人。まさかの××××。次点をウフクスと双子が争ってます。
・珈琲紳士のヒヘイデス・スがすごく好きなタイプだった……。

しかし4巻を読むまではまだまだ油断できない!


そういえば2巻AWの感想をメモったまま放置していたのでコピペっておきます。
・キャラデザは(絵・文ともに)基本そのままの様子。
・禍つ式のカットがゼロに! なんてこった!
・「略して」ってそんな連呼してたっけ?
・爆圧がかっこよすぎる。
・愛しのホスゲンが! なんてこった!
・「お前なんか」が「お前は」になって鬱度がダウン。
・男の生足しんどい。

今見返すと、我ながら注目するポイントがおかしいような気がします。
でもみんな、生足はしんどいと思ったに違いない。
ロンドン、深町眞理子訳、光文社古典新訳文庫

北の大地で生きる犬と狼の話なつかしー、昔こういうの読み漁ったよ、と当時感じたうつくしいものへの愛しさに打ち震えつつ読み終わって解説にたどりつきました。
『ホワイトファング』(または『白い牙』など)ってロンドンだったのか!
読んでる読んでる、小学生くらいのときに、いとこの部屋にあったのを読んだよー、ますますもって懐かしい。こうなると前にも書いた狼一家の本2冊も再読したい。『雪原に生きる』『オーロラの下で』だったかな?
ちょうど集英社が出してるシートン動物記も読んでるので、気持ちが小学生にタイムスリップしかねません。当時はファーブルにはじまって椋鳩十まで制覇したものだった。
ていうか全55編もあるのに3巻ってどうなのよ集英社。伝書鳩の話とウサギを育てる母猫の話と、カナリヤのように歌う雀の話をもう一度読ませろ。くきー!

解説に引用してあったロンドンの手紙がすごかったので孫引き。
社会主義はあらゆる人間の幸福のために考えだされた理想的な制度ではない。血族関係にあるいくつかの人種の幸福のために考えだされたものである。その血族関係にある恵まれた人種に、より以上の力を与えて生き残らせ、弱小民族を滅ぼしてこの世界を受け継がせるために、考えだされたものである。

この記述を見ると、なんで社会主義とナチがどつきあったのか不思議に思えてきますなー。

それにしても、バベルの図書館で見せるボルヘスのセンス半端ない。途中までしか読めなかったことが悔やまれる。
浅井ラボ、小学館ガガガ文庫
角川書店から出ていた同タイトルのシリーズに、大幅加筆修正を加えての新装版。
作者本人の発言から推測するに、角川とは恐ろしいほどもめたっぽい。ていうかガガガ編集部のブログが怖すぎます。
どう見ても全力で喧嘩売ってるよね。

信者的には、作者が快適に執筆して新作を刊行してくれる出版社がよい出版社なので、発音できない書店からの移籍については「ああーこれで新刊が出るよ、死ぬ前に続きが読めるよ」と喜びを持って迎えたいと思います。
内容とは全く関係ないですが、ガガガ文庫の使用しているフォントの美しさは素晴らしいですね。
上品で冷淡でスタイリッシュ。
角川版と脳内比較しなければこの美しさには気づかなかったかも。

さて新装版について、旧版と比較しつつ感想ー。もちろん旧版は読んでるという前提でネタバレしますよ。

・「號っ!」はさすがに削るだろう、いや、しかしあれはある意味でマイノリティの誇りと挫折を端的にあらわす作品の本質的なアレをアレしてるアレなので、残してくるだろうけど一行目にこれはないと……
ありました。
そんなどうでもいいところに情熱をかけて予想するアホがわたし以外にも存在して嬉しいです。同士よ。同好の士よ。
厳密には「1章の1行目」になってましたが。
・おそろしくこなれているけど、結婚式に生首とかの冗句については旧版のノリのほうが好きだなあ。いびつに過剰な若々しさは削れて丸くなる運命にあるのはわかっているけど。
・話の流れはほぼ旧版と同じ。削られていたところを存分に肉付けしなおした感じ。2巻以降の物語とつながる「シリーズ全体の大きな流れ」を意識した調整ですね。
・そのおかげで1巻だけではあんまり意味のない登場人物が新規に足されたり、クローズアップされたりしてるので、旧版の「無駄に入り組んだ構成と必要なもの以外は全くない」完結した美しさが殺がれてやや残念。
・デビュー1発目にもかかわらず、二重三重に重ねてくる緻密な構成と、必要なものの演出と不要なもののフェードアウトの手際、しかも完全にひとつの物語として完結してるところに驚愕したので「ひとつ」でなくなったことは残念でありますなー。
・新装版読んで好きになった人は、旧版がなくなる前に買いに走るといいと思うよ。
・完全な信者の発言だと自分でも思います。
・キュラソーは「つけものを嬉々としてつけるおっさん」でも相当に可愛いと思うので、1巻のあいだくらい正体を伏せて欲しかったであります。
・ヨルガとマグナスは旧版のデザインの方が好きだった……!新版ではよりオートマチックぽくなったけど、その分量産型っぽいよね……。大業物なんだから一本物であって欲しいんだぜ。
・魔法使いの杖で剣で銃で日本刀もこなすって、どんだけ欲張りで贅沢な設定なんだろうと気がついて、驚愕した。これだけでかなり勝ってる。いろんなものに。
・アクションの加筆で燃える燃える。
・あと駄目眼鏡な主人公が好きすぎるので、もっと酷い目に遭えばいいと心の底から思います。ぼこりたい。
・誤字脱字が酷いとは聞いていましたが、地の文の間に突然かぎかっこの下半分だけとかひどすぎる。大変盛り上がっているラストバトルで「間違いを犯していただようだ」とか。特に後者、緊迫感が瞬時に蒸発した。

完全新規書下ろしが来るまで、楽しく楽しみに生きて生きたいと思います。
久美沙織、ソフトバンククリエイティブGA文庫

実を言うと久美沙織の完全オリジナル小説を読むのはこれがはじめて。
「新人賞の獲り方教えます」はいい本ですよ。実践的で基本的でわかりやすい。もう入手できないと思うけど。

ライトノベルらしからぬこの空気はなんぞ。
これはあれだ、まだ少女小説がライトノベルではなくて、少女向けジュブナイルだった頃の感じ?
コバルト文庫がまだ少女小説レーベルだった頃の匂いがします!
少なくとも萌えという単語が、カテゴリ分けに関係する前のものだ。間違いない。
牧野修の『呪禁官』にキックされてできたもの、と聞いて予想していた「ライトノベル的設定と成長を楽しみましょう」なファンタジー学園物とは壮絶に違いすぎました。
予想と現実の落差に、自分のヨゴレっぷりを痛感。
これはじゅぶないるとゆーやつなのですね、と気を取り直して3巻一気読み。

・1巻は非常にきれいにまとまってました。
・ラストの曲(「Left To My〜)と夢との噛み方なんてすばらしく泣ける。
・2巻から、投げっぱなしの人間や伏線が気になり始め、3巻で投げっぱなし極まる。
・作者の思想みたいなものが、明らかに物語から浮いている。もうちょっとこなれてないと流れがつっかえて大変読みにくい。
・最後まで永井と琴野のどっちがどっちなんだかわからなかった……。
・あれとかこれとかそれとかどうにかなりませんか。

結論。
1巻の調子を保ってくれなかったことが大変悲しいです。
彩峰優、ファミ通文庫
主人公には熊の着ぐるみかぶったマッチョな軍服に見えるのに、なぜかまわりの人たちにはプラチナブロンドのたぐいまれな美少女に見えるらしいヒロイン。その名も「グリズリー・軍曹」。
軍曹が好きなので買いましたが、これってラノベとしてはむしろ昔のスタイルじゃないですか?
美少女に囲まれた、優柔不断でいじめられっこな主人公少年と、他の人には美少女に見えるのに、主人公にとってはそもそも人類に見えない非常識生物なヒロイン。
ラブコメ漫画の方だろうか……。
文章中、何が起こっているのかわからない説明不足な部分が多々あるのはさておいても、昨今の競争激化したラノベの新人賞(系)を獲ったとはちょっと信じられないなあ。
あまりにも普通すぎる。
新人賞で見るべき点は、文章の巧拙よりも、今後楽しみにできるポイントがあるか否かだと思うので、どこを見どころにするべきかわからない作品は、よっぽど巧緻でない限り推せないでっすな。
単にえんため大賞とわたしの趣味が合わないだけの可能性もありますけど。
サブタイトルが同じかと思ったら、絆と欲望が入れ替わってた。
4巻読了時点でのわたしの予想。以下4巻の激しいネタバレになります。

・ゆゆゆ可愛いよゆゆゆ、でも湯女のほうが好み。
・屋敷をクローズドサークルにしたのは景子さん。
・手伝ったのは貴弘。
・もちろんこの「クローズド」の中には景子さん射殺も含まれる。
・理由は不明。
・三日目の夜の夕食は人肉確定。「食欲がない」という舐めきった理由回避した湯女は既に知っていると思われる。
・菜種さんは食事を用意するという義務のほうが、人肉食というタブーに優先する。なにげにこの人も壊れてるな。
・てことは桃花が行方不明なのは、もちろん菜種さんに食料としてゲットされたから。地下室に貯蔵されてるのかな。
・人間解体して食べられるようにするには、ものすごい道具とか労力とかスペースとか必要そうなんだけど……。そういうところを突っ込む作品ではなさそうなのでスルー。
・ラストの襲撃犯は不明。打撃の威力や量からして男性っぽいが、絞りきれない。

以下5巻の激しいネタバレになります。
大体予想通りでしたね! よかったね自分!
でも、事件の謎解きをして、犯人と動機がわかってもあと半分くらい残っている辺りがいかにもらしいです。これは驚いた。普通はもっと後のほうで解決するだろうと。
謎を解決してもまったく問題解決にならないって、そうだよなあ、クローズドサークルだったら、むしろ謎を解決したらそこから脱出できるっていうほうがご都合主義だよなあ、と思わず考え込んでしまいました。……あー、だから「そして誰もいなくなった」なのね。納得。

今回の章タイトルはついに出版社の枠を超えて、ミステリ系なんでもあり状態です。
『冷たい校舎の時は止まる』なんて講談社じゃないですか。
本文中に仕込まれる本の題ネタは、最初から出版社の枠を越えてたから、どうってことないのですかしら。

クローズドサークルが発生した理由は読めませんでしたが、なるほどこの理由なら頭のおかしい建物と現実離れしまくった人間が揃ってる理由もクリアできるなあ。
そういう意味では設定がメタっぽい視点をちゃんと意識していて上手い。
事件自体はそう「超絶技巧! 本格推理!」ではなかったわけですが。
それにしてももう5巻かあ。
5巻超えたらシリーズものに新規参入するのって難しくなりますよね。
よく考えたら、ラノベって時として週刊連載のコミックスを凌ぐ速度で刊行されるのか……。
おそろしやおそろしや。
秋山瑞人、電撃文庫
古橋秀之との共同企画”龍盤七朝”シリーズ第一弾。
中華風の世界観で武侠でチャンバラ。一部の趣味の人を狙い撃つこってこて。
かつて”龍”と呼ばれた剣の使い手の末裔、青い目の被差別民と、屋敷を抜け出しては市井を探検する第十八皇女がぼーいみーつがーるしつつ、皇女が剣に天賦の才を発揮。
物量と戦略こそが戦の勝敗を決めると知っていながらも、なお「最強」を目指すことをやめられない男たちが、武の最高峰を決する「大比武」目指して集うところで1巻終了。
お姫様のおつきのじーさんが、かつて天下に名の知れた武芸者だとか、諜報機関の生き残りがこそこそつなぎを取っているとか、そこかしこにアレな要素満載です。
大好きです。いいぞもっとやれ。
地力のある書き手が、けれんとはったりを駆使してつむぐ最強決定戦。これにときめかずして何がさいばー武芸者かー!
冒頭の、群狗が回想する”龍”の砦陥落なんて、適当に名詞をさしかえたら一般の時代小説の中に突っ込んでおいても大丈夫なんじゃね? バレないんじゃね? という思いが頭をよぎる。
なんだかんだ言って、この人の文章がとても好ましい。
次巻以降がちょうぜつたのしみです。

『サキ短編集』

2008年5月15日 読書
サキ、中村能三訳、新潮文庫
「バベルの図書館」でサキに大喜びしたので、折角だから手元に置こう、まだ読んでない短編が入ってたら一粒で二度おいしいわよね、と購入。
全部読んだことがある……。

カフカ>サキ>ヘンリーの順で好きだけれど、あんまりわかりやすすぎる趣味のような気もしないではない。
大槻ケンヂ、角川文庫

「外伝2編を加えた完全決定版」だそうです。ありがたいことです。ですがちょっと前まで入手しにくくなっていたという事実に角川ァー!と叫んだことは忘れない。
近未来、いかなる存在の意志によるものか? 15歳から17歳までの少女たちが突然、世界中で狂死を始めた。少女の屍は立ち上がり、人肉を求めてさすらう無数の大群と化す。屍少女”ステーシー”殲滅のために完全武装の再殺部隊が組織されるが、戦いは血まみれ、泥沼の様相を呈し、涙は枯れ、心は凍りついていく……。
エログロナンセンスと、幻想・耽美・少女を愛する人には必携の一冊と全力でおしておきますね。
15歳から17歳の少女というだけで、唐突に死亡し、その直後に人肉を求めてさまようゾンビと化す。「再殺」するためには165の肉片に分割する必要がある。
再殺の権利をせめて想いを寄せた少年にあげようと、精一杯めかしこんで、ニアデスハピネスの微笑で出かけていくとかどうよ! どうよ!
ステーシー化現象が起こったとき、18歳だったら悔しいだろうなあこれ、と思ったわたしは未だに少女幻想に執着しておりますよ。
死ぬことが確定してから、誰かに「世界に一人だけになってあげる」って言う詠子の少女らしさとかもう素晴らしいね! 泣けます。

なんか迂闊なことを言う前に終了。

『白髪鬼』

2008年2月25日 読書
岡本綺堂、光文社文庫

実にこなれて軽快な、それでいてい端正な文章で語られる、いわゆる怪奇物語集。短編13本を収録。

「こま犬」
「水鬼」
「停車場の少女」
「木曾の旅人」
「西瓜」
「鴛鴦鏡」
「鐘ヶ淵」
「指輪一つ」
「白髪鬼」
「離魂病」
「海亀」
「百物語」
「妖婆」

作中の語り手のひとりが「すこぶる軽快な」と形容されていましたが、これはむしろ作者のためにあるような言葉ですなー、と思ったら、「綺堂は若い頃英国大使館に職を持っていたくらいで、なまなかの文学者にないほど外国文学に通暁していた」ってものすごいインテリぶりにびっくり。
この中では「西瓜」と「百物語」がお気に入り。西瓜が生首に化けるとか素敵すぎる。この調子で岡本綺堂の怪奇系をじりじり集めていこうと思います。

『氷菓』

2008年2月25日 読書
米澤穂信、角川文庫

一部でじわじわ人気の米沢穂信の第一作。
文科系の部が異様に盛況な高校を舞台に、やる気のまったく感じられない主人公を探偵役として、日常的な謎を解いてゆく連作短編。いわゆる日常の謎系ミステリ。事実の列挙と会話だけで推理を組み立てて行くので、ディスカッション型とも言えるかも。
この文体にものすごく見覚えがあるのに、どこで見たのかどうしても思い出せなくて隔靴掻痒。
情景描写が涼しげで、小体ながら繊細で丁寧なつくり。薔薇色の青春にどうしても馴染めない、省エネ灰色主人公が、友人たちと「なにかをやり抜いたと思えるか」探し求める青春小説としても読めます。煽り文句の「さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ」には偽りなし。

主人公がときどき、武士っぽい言葉で喋るのが気になります。北方謙三みたいなハードボイルドになってるときがある。
表紙の「You can’t escape」ってどういう意味でしょうか。
この学校、文系にとっては天国みたいな環境に見えて、とってもうらやましいです。わたしも手芸部に入って曼荼羅縫いたい! それなんて苦行?
バタイユ、中条省平訳、光文社古典新訳文庫

ぜんぜんわからなかったので、参考になるレビューがあればなあとネットで検索したのですが、ざっと見たところ、みなさん「わかんねえー、よくわかんねえー!」と書かれているので途方に暮れつつ安心しました。よし、わからなくても何も恥ずかしいことはない。
以下適当に思ったことを。

「マダム・エドワルダ」
「ある街角で、不安が襲いかかった。汚らしく、うっとりするような不安だ」極限のエロスの集約。戦慄に満ちた娼婦との一夜を描く短編「マダム・エドワルダ」
これ以外にあらすじの書きようってないよね。開始8ページ目にして主人公が「自分を解き放つ!」のAAばりにズボンを脱いで露出しはじめて吹きました。もうあのAAしか浮かばない駄目人間。純文学を読んではいけないのかもしれません。
真面目な話をすると、冒頭にかかげられたこの太字部分が全て。
 きみがあらゆるものを恐れているのなら、この本を読みたまえ。だが、その前に断っておきたいことがある。きみが笑うのは、なにかを恐れている証拠だ。一冊の本など、無力なものに見えるだろう。たしかにそうかもしれない。だが、よくあることだが、きみが本の読み方を知らないとしたら? きみはほんとうに恐れる必要があるのか……? きみはひとりぼっちか? 寒気がしているか? きみは知っているか、人間がどこまで「きみ自身」であるか? どこまで愚かであるか? そしてどこまで裸であるか?
この文章をなにひとつ否定できないのはどうなの自分。本を持ったまま「あああ」って腰くだけました。あらゆるものは恐ろしいし、本の力は絶大無比だし、本の読み方はわからないし、いやまったく何もわかりませんね! あああああ
エドワルダが繰り返し「裸の女」として描写されますが、この「裸」というのは服を脱いでいるという意味ではなく、なんの備えもなく、構えもない、おおうもののない「じぶん自身」ひとつだけで世界にさらされているという意味で、併録の「目玉の話」の目玉のイメージを彷彿とします。
苦痛を紛らわすための放蕩が苦痛でしかないのに、それでも放蕩に身を捧げるなら(捧げずにいられないのなら)、放蕩が苦行のような聖性を帯びることも不思議ではないのかもしれません。不確定保留。

「目玉の話」
目玉、卵……球体への異様な嗜好を持つ少年少女のあからさまな変態行為を描いた「目玉の話」
変態という言葉ではなまぬるい、冒涜と背徳の限りが尽くされておりました。逆に、これらを変態と称するのが正しいなら、変態という言葉も随分安くなったものですね。キリスト教徒でないわたしでも鼻白むのに、これをフランスで読んだ人の気持ちやいかに。
バタイユと言えば「眼球を舐める」しか知らないまま、しかもはじめて読んだのがこの本です。推して知れ。いろいろと。
いわゆる変態趣味の本なら、よほどのことがない限り別になんとも思わないわ、という無駄な自信が崩れ去りました。その辺のエログロ猟奇趣味程度では太刀打ちできないエロス&変態。
これに比べると、一般にエロのために提示されるSMのなんという浅はかなことか。SM以外でも、性的な快楽だけを目的とした手段としてのエロは貧しくてさびしいですね。
彼らの行為は冒涜的であるけれど、キリスト教的な冒涜のもっと上を目指しているように思えます。冒涜のための冒涜。神よりももっと、切実な、なにごとかの否定あるいは肯定。
解説で触れられていた、「至高性」に関する方向で考えていいのかしら。

と、ここまで考えたとき、まだ主人公たちは教会で司祭を××××してませんです。あの場面は白眉なんだけれど、読んで不愉快になる人のほうが多そうですね。
突然『続篇の草案』が出てくるのがむしろ理解をさまたげるのですが、これはメタな視点の挿入で、作品としては完成しています……いますよね?
解説によると、バタイユは熱心なカトリックであったのが、信仰を放棄して放蕩にふけりつつ司書として働き、著作をおこなったとのこと。熱心なキリスト教徒が棄信してこれを書いたというのは、さもありなん、という感じ。
なんか三島(由紀夫)さんがバタイユ超好きらしいので、そっちからも読んでみたいです。
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア、朝倉久志訳、ハヤカワ文庫

タイトルだけしか知らなかったときは、ミッションインポッシブルに挑戦する男主人公によるややハードボイルドな話かと思ってました。だってこれが小説のタイトルだと知ったのは格ゲーのノベライズだったんだもの、仕方ないと思います。
すいません、今ものすごい稚拙な言い訳しました。

デネブ大学の図書館で、「連邦草創期の人間(ヒューマン)のファクト/フィクション」を探している若いコメノのカップルに、主任司書が3冊の物語をさしだします。要するに作中作ですね。
その3冊の本に当たるのが、各章題になっている三話。カッコ内は原題。
「たったひとつの冴えたやりかた」(The Only Neat ThingTo Do)
「グッドナイト、スイートハーツ」(Good Night, Sweethearts)
「衝突」(Collision)
あ、今気がついたけど「スイートハーツ」なんだ。さすが。
やった! これで宇宙に行ける! 16歳の誕生日にプレゼントされたスペースクーペを改造し、そばかす娘コーティーは憧れの星空に旅立った。だが冷凍睡眠から覚めた彼女を意外な驚きが待っていた。頭の中にイーアというエイリアンが住みついていたのだ! 意気投合したふたりは、<消えた植民地>探検に乗り出すが……元気少女の愛と勇気と友情を感動的に描く表題作ほか、星のきらめく宇宙に展開する壮大なドラマ全三篇を結集(背表紙より)
このあらすじを見て、「ハヤカワが愛と勇気と友情と感動というからには、ただ人が死んじゃうだけの昨今の泣ける本とは違って、ほんとうに泣かしにくるに違いない」と思ったのは間違いではありませんでした。
が。普通、このあらすじで「宇宙と冒険に憧れる元気少女」が主人公だったら、幸せな冒険と帰還が待ってると思っちゃうんだぜ……。これは真性のトラウマ本だと思います。
レビューを探してみたら、かなりの人が泣かされてるようだし。そもそも訳者あとがきによると、「これを読んで泣かなかったら人間じゃない」という書評を書いた人までいるくらいなので、泣ける本という予想は間違っていなかったんですけどもー! もー!

あと二篇についても、ばたばたと人が死んでいくので、いつ誰が死んでも不思議はない、とびくびくしながら読みました。
全体から受けた印象は、ほぼ訳者あとがきの「昔なつかしいスペース・オペラの世界が」「円熟した筆致でくりひろげられて」いる感じ。確かにこれだけ見ると野心的とか最先端とかいう言葉とは縁遠いですね。
これがはじめて手に取ったテイプトリー作品なので、どんな作風の人かは知らないんですが、冒頭でいきなり『輝くもの天より墜ち』の話が出てて、これは読めということですか……と増えていくだけの読書リストに泣いた。
もとなおこ、秋田書店プリンセスコミックス。

こないだちらっと触れた『コルセットに翼』の1巻感想ー。
たまたま、ほんとうにたまたま本誌プリンセスを読んだら、連載第二回目で主人公がコルセットで締め上げられていたのでした。
それ以来1巻の発売を楽しみに待ってた甲斐があったんだぜー!
育ての父を亡くしたクリスは、親類たちのにより寄宿舎学校に送られることになった。生まれ育った島を離れたクリスを待っていたのはなんと――(背表紙より)
19世紀末を舞台にした「学園もの」。
両親を亡くした不幸っぽい娘さん、意地の悪い親戚、牢獄のような寄宿舎、そこで知り合う少女たちと、謎の縁者っぽい青年。
物語のはじめと登場人物だけ見てると、正統派少女漫画で小公女だな、とぼけーっとした感想を抱いていたのが、コルセット登場に至ってひっくり返しましたよ。
賢くて強情なクリスに手を焼いた経営者が、最後の手段としてコルセットでヒロインを締め上げるのですが、これを聞いた特別生のジェシカの台詞がすごかった。
そう…タイト・レイシングを……シンプルで残酷ね(中略)
わたくしは初めて彼女に/この身体を締め上げられた時の屈辱は忘れないわ
彼女にとってコルセットは/私たちを従属させる道具よ
そこには美しさへの憧れも/美しくなる喜びも存在しない
(改行は適当です。)
なんて熱い美意識! と感動に打ち震えつつ歎美仲間に長文メールしました。迷惑なことです申し訳ない。
ヒロインが「前はそれでよかったかもしれないけど」「今は違う」「これからのために必要なこと」と現実と向き合うとき、理不尽な否定がこの世にあることを思い知らされたりと、結構辛口なストーリーもいいねいいね。
例の台詞を引用して大体満足しました。

きらきらとひらひらと制服と学園と美少女とコルセットと牢獄の舎監のごとき教師とその他たくさん素敵なものが詰まってるので心の底からすてきすてきー! と叫んで同士を募ります。
上甲宣之、宝島社文庫

映画にもなった『そのケータイはXXで』の前日譚に当たる、殺人鬼・レイカを主役にした外伝エピソード。

読む前に「呪い・催眠・カーズ」って分けて読むのかなー、そうだとしたらアホっぽさがやや減ってマシなタイトルになるかも、とおもっていましたが甘かった。
サブタイトルは敵役の翠が使う、超・催眠(催眠を通り越していて、前に「超」をつける以外に表記のしようがない)のことで、作中の説明によると、
「普通の催眠を超えた、呪いとでも言うべき力」なので「呪催眠(のろいさいみん)」
かつ、
「呪い=curseと、車の=car’s をかけてカーズ」

なんというB級……!

しかも、この敵役のプロフィールが噴飯もので、IQ180以上の天才で、もと心理療法士。どんな相手でも一瞬でトランス状態に陥らせることができるという、まさに「目が合っただけで
以下略もうしんどいので勘弁してください。
IQ180でそのネーミングセンスはどうなんでしょう。
あと、登場人物の半分くらいは、身体能力の点で人間をやめてます。

という、1作目からのB級路線に更に磨きがかかった仕上がり。ブレーキを踏もうとしないどころか、全ての要素を全力でB級にしようという作者の情熱が感じられます。
上甲宣之による、B級好きのための超B級エンタテイメントとでも言えばいいのでしょうか。
これからも躊躇せずアクセル全開で前人未到の領域に突っ込んで欲しいです。
そして誤解のないよう念を押しておきますが、すごい誉めてます。この日記。

ここで比較対照として山田悠介をあげたら、怒られそうな気がするので、誰がどのようにガチなのかについては書かないでおこうと思います。

1 2 3 4 5 6 7

 

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索