『雪が降る』

2004年10月18日 未分類
藤原伊織。講談社。

「台風」
過去の話と現在の話の間に温度差がなく、全て同じ濃度で書かれているような……。何処に焦点をあわせたら良いのかわからなくてちょっと戸惑い。唯一であるものを取り上げられたら人殺しだってするさー、ということと、それを二度経験しかけた主人公の心理との間にどんな因果関係あるいは相関関係があるのかさっぱりでした。悪役が悪役らしくて非常にいいんだけどなあ。
「雪が降る」
親友と、元恋人の親友の奥さんと、親友の息子。自嘲以外は今更実用以外の何が出てくるんだといわんばかりの主人公が語る妙な人間関係。親友のことを、親友の息子に対して誇りに思うと言った主人公が自分の誠実さに全く気づいていないのがミソ。素直に泣ける話でした。
「銀の塩」
この辺りで傾向を掴んだ気がするんだけども、いざ書こうとしたらするっと逃げられた。
「トマト」
噛めば噛むほど味が出る代わりに、味が出るまでのこの日干しのような淡々とした固さは何事なのか。口の中の水分を吸い取られそうな予感がしたので、顎がいかれる前に咀嚼を諦めました。自称人魚の彼女が水際立って鮮やかですね。
「紅の樹」
「銀の塩」と同じタイプだと思ったんだけれど、話の流れを見ると正反対だったり。逃走する人間が日常に戻ろうとして、あるいは知らず日常に足を突っ込んでいたのだけれども……、というところまでしか共通点無し。うーん、さっき逃げた言葉は何処へ行ったのか。捕まえ損ね悔しい。
「ダリアの夏」
金魚飲んだら駄目ー!真夏の路面に水溜りのように光る硝子の輝きに目を奪われるような人間だけがわかる「ゆがみ」なんじゃないかなあ、と勝手に推測。母と老人と主人公と、曲がってしまった大人の中にあって章一のなんとまっすぐなことか。この話に限っては全員がちゃんと歩き出せたのだろうなと思う。歩き出した先が何処に続くのかはまた別の話だけれど。

「台風」が秋、「雪が降る」が冬、「塩」が夏、「トマト」がちょっと限定できなくて、「紅」が冬、「ダリア」が夏。春だけないのか。まあ「紅」の冒頭は春先みたいだけど。発表時期を見ればまあ当たらずとも遠からじ。こんなとこ。

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