『少年・卵』サンリオ。
谷山浩子の歌に登場する不思議な世界は、長野まゆみの小説に登場する不思議な世界とどこか共通した匂いを持っていると、常々思っていたのですが、多分これで同意を得るだけの説明はできるようになった……かも。
主人公の鳥子が、先輩の家に行って遭遇する変な出来事から、気がついたら追うものがスライドして、これ終わるのかしらん、と少ない残りページに眉根を寄せました。ところがスライドしていると思ったのは鳥子と読み手の私だけ。追うべきものはちゃんとその先にあり、彼女が考え違いをしていただけ――というところで終わらずに、何故にあの結末か。卵から出てきたのが少年かそれとも少女の分身かそれとも普通に卵の中身かによって、ストーリーが全く違うものに。「食べれば戻れる」という展開に「あ、ぽっぺん先生だ」とやたらほほえましいハッピーエンドを予想してしまったみじんこの負け。
しかし長野まゆみと似たような似ていないような。明確に似ていない点は、恐怖に関する描写。猫也登場後しばらく「このひと怖いもの書くなー」と尻込みしました。こういう怖さは長野作品ではお目にかかった覚えがない。思わず「ぎゃー」と心の中で叫ぶくらいの怖さ。使う単語のせいか、のんびしりした雰囲気の文章なのに、対象の描写には回りくどいところがない。直接的というか、時折生々しくすらある。
面白い。作品タイトルだけなら両手で足りないくらい知ってるのに、実物にお目にかかれたためしがないので、これからもチャンスがあれば逃さずゲットの方向で頑張ります。版元がサンリオなのには驚いたけど。

『新学期』河出書房新社。
読んだことあるような……と思いつつ借りてきたらやっぱり読んだことがあった……。別の話と微妙に混同していたせいらしいですが、それでもがっくり。本に関してだけは忘れないと思っていたのに、最近の記憶の衰え振りには戦慄を感じます。
史生の思うように行かないもどかしさが、以前読んだときよりも鮮明に感じられ「ぎりぎりぎり……」と怪しいひとりごとと共に読み進めました。兄との意思疎通の齟齬やらなにやらに身悶え。もごごご。椋と密の二人ともまた思うようにいかない。ぐぎぎぎぎ。史生と共に泣きを入れながら頑張る。ていうか泣いた。以前どういう感想を抱きながら読んだのかおぼえていないけど、少なくともここまで胸に迫るものはなかった。年とともに感傷的になったのかしらん。
それにしても長野作品は舞台になる街の設定や描写が絶妙ですね。実在の土地なのかそれとも架空の場所なのか、わからないしわからなくてもいい。それでいて嘘くさくないというのが不思議。適当に街なんか書いたらそれこそ虚構の街になるのになあ。確かにそこにあり、四季が過ぎ去る物語上の街なんてそうそうお目にかかれない。実在の土地でも紙っぺらのような描き方しか出来ない人間には魔法のように見えます。

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