ごーはー。読みました。まさかほとんどフミ子さんの語りで占められているとは思わず、少し驚く。

三枝家三姉妹の次女に雇われた女中として長いこと三枝家と重光家を見続け、女中をやめたあとも縁の切れることのなかったフミ子さんの目を通して語られる、東太郎の物語。と、見せて実はフミ子さんの一代記としても読める。三枝家と重光家の華やかなりし時代から、戦後普通の家とさして変わらなくなった時代までを背景に、三姉妹を中心にした家の人間関係をえんえんと描いた作品でもある。中心人物であるはずの東太郎はむしろ物語から少しい遠いところにいる。三姉妹の次の世代になってから漸く登場し、そして長い間姿を消している。
古く大きな名家の、戦前から戦後にいたる姿を描くところなど、作中でその例として挙げられた『嵐が丘』などの西洋の作品そのまま。非常に伝統的なスタイル。壮大な恋愛の物語であり、家族の物語でもあり、一人の女性の半生記でもあるという、非常に贅沢な内容。優雅で貴族的な上流階級の生活も、世界大戦中の厳しい世情も、戦後すぐの貧しい庶民の生活も、都会も田舎も惜しみなく描かれる(惜しみなく描く、という表現が言葉としておかしいのは他に表現が思いつかないという事実にあっさり敗北)。波乱万丈な東太郎の人生と恋愛からはメロドラマの香りもする。一粒で二度三度四度と美味しい。
頭から尻尾まで、美味しくいただきました。……自分で仕立てまでする人間の視点からみた服装の描写がこれでいいのかー?!とか、「おおよう」ってなんだろう、とか、「なにしろ」多すぎるとか、微妙に気になる点がふたつみっつあったけれど、そんな些細な点に拘って小説の持つ楽しさを味わえなくなるのはたいそう悲しいことなので、何も考えずに楽しむが吉。大吉。

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