ミヒャエル・エンデ著、丘沢静也訳。岩波書店。
奇想天外な長短30編からなる、児童文学よりもシュルレアリスムの絵画のごとき連作短編集。
「鮮やかなイメージと豊かなストーリーをそなえた三十の話は、ひとつずつ順番に、大きくゆがんだ鏡像となって前の話を映しだし、最後の話がまた最初の話につながっていく」訳者あとがきより引用。
児童文学の作家とみなされてきたミヒャエル・エンデが、現代を映し出すイメージを求め、神話やメルヘンの形を捨てて辿りついたのがこの辺りらしいです。一つの話は他の話を歪んだ鏡として映しだし、最後の話は最初の話へと続いていく。万華鏡のようなイメージの氾濫でありながら、明確なストーリーを持つ点では、幻想という言葉が相応しいのであるが、むしろここは「物語」と評するしかないと思われる。それも、児童向け文学から児童という制限を取り払った、神話からあの神々の名を削り、童話から「童」を外した、そんな意味での物語。ストーリーを持つが何一つ解明されていないエピソードや、圧倒的なイマジネーションから「ファンタジー」の匂いを嗅ぎ取る私にはこれ以上の適当な分類を思いつかない。
知人から「他の本に比べると難しい」と聞いてはいたけれど、まさかこんな直球勝負の難しさだとは思わず。全編を暗く灰色のしけった空気が覆う。腐り、悪臭を放ち、血を流し、倦怠し、絶望し、閉塞し、落下する。目覚めは否定され、キスは与えられず、女王は世界を滅ぼす。
しかしおそらくここに絶望はない。汚れた擦りガラスの向こう、灰色の空の下には誰かが立っている。誰かは誰かと同じ空の下にいる。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索