森博嗣、中央公論新社。
「ジャンル、森博嗣」としか言いようのない本。冒頭に置かれるエピグラフもまたいつもの通りに意味不明。ただ、今回はかなり有名どころなので、切り取った部分以外もわかる読者が多いことは作者も承知なのかもしれない。いつも全速力でそ知らぬふりで、ついてこれない人間は置いてけぼりなのが森博嗣。

どうしても触れておかずにはいられないのが装丁の美しさ。この美しさに引かれて、森博嗣を初めて手に取った、というひとも少なくないらしい。本屋に新刊で広く平積みされていたとき、そこだけ切り取った空が広げてあるような不思議な空間をつくりだしていた。人間がいない、極限の世界を美しいと思う心のあらわれ、なのかもしれない。
主人公は飛行機乗り。戦争を知らない世代の次の、戦争を知る世代。大人は戦争を知らない、子どもは戦争を知っている。そんな近未来を舞台に、大志もなく漠然と空を飛んで人を殺す。漠然と人に殺されるのを待っている。日常と戦争は一続きで、人を殺した右手でハンバーガを食べる。そこになんの区切りもない。
温度のない曖昧な、数値だけがはっきりした世界で、人を殺すことと人に殺されることと死ぬことについてぐるぐると考える主人公。殺されるまで死なない生き物である子ども達は、生きるということの定義が通常考えられるそれからはるかに逸脱している。
あらゆるもものの価値が等価であるといいたげなまなざしが捉えた世界。あらすじだけを切り取ると、たいそう悲惨なはずなのに悲壮感は何処にもなく、読み終えると残るのは、さっぱりした空気だけだった。

個人的に空中戦とバルブの改良とエンジンの開発はときめき度高かったです。ロマンだ。

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