皆川博子、早川書房。
あれ、ハヤカワ・ミステリワールドですね、この本。
ラスト付近の、人間関係がまるまるくつがえされる仕掛けを見て、うわあミステリだと驚いたのは正しかった。カバー背中にある解説だと、なんだか純文学の頂点みたいなことになってますが、どちらかと言うと問答無用のエンタテインメントだと思います。
第二次大戦下のドイツ。マルガレーテは身よりもなく私生児を身ごもり、出産までの日々を<レーベンスボルン>という施設で暮らしている。その施設は「完全なるアーリアン」を増やすため、産婦や子ども達を集めていた。マルガレーテは、芸術を偏愛する医者クラウスに求婚され、エーリヒ、フランツ二人の少年の養母となる。戦争の行われているあいだ、危うい均衡を保っていた寄せ集めの家族は、戦争の終結とともに崩壊した。
第二次大戦が終わってから14年。ゲルトは<国防スポーツ団>に、友人に誘われて入団したが、キャンプ中に脱走する。母親と二人暮しであったが、その母は男と手を取ってアパートを出て行ってしまった。スポーツ団のヘルムートのしつこい勧誘を逃れ、適当に身を置く場所を探すうちに、ゲルトはエーリヒ、フランツの少年二人と知り合いになる。そのころ、クラウスと知り合いになったギュンターは、自分の子を産んだらしいマルガレーテと再会し、一目で恋に落ちる。
前半と後半で時代がかなり違います。登場人物も一部を除いてさまがわり。前半で主な視点であったマルガレーテは、後半では正常な思考を失い、時の流れに取り残されたような状態に。お金もちで軽薄な美青年だったギュンターはうらぶれた中年に。声楽を仕込まれた兄弟二人は、仮装して歌う大道芸人に。クラウスだけが相も変わらず偏執的に美を愛する、尊大不遜な変態ですが。
耽美好きな人にものすごくおすすめ。ボーイソプラノを保つために去勢された美少年と、その兄。古城の地下にある塩の湖と通路。薬物の投与によって成長を早められた美少女と、その双子の片割れ。追い詰められ義理の息子に恋をする母。人体実験。美に異常な偏執を示す、倣岸尊大な医者。作中作の、さらに作中作。
「死の泉」の装丁以外を残らず再現する、作者の細密なこだわりににやりとさせられました。前半のマルガレーテ一人称が、後半で手記になって登場するくだりを読んだとき、それまでの自分を虚構だと言われたような気がしてぎくっとしました。知らずに一人称に共感して読んでいたところを、作中人物に外側から眺められた気分。あとがきの足の謎まで含めて、素晴らしくミステリな一冊。
ただ、どうしてもゲルトとヘルムートが好きになれないので、そこだけ減点。出番も妙に薄いし。
あれ、ハヤカワ・ミステリワールドですね、この本。
ラスト付近の、人間関係がまるまるくつがえされる仕掛けを見て、うわあミステリだと驚いたのは正しかった。カバー背中にある解説だと、なんだか純文学の頂点みたいなことになってますが、どちらかと言うと問答無用のエンタテインメントだと思います。
第二次大戦下のドイツ。マルガレーテは身よりもなく私生児を身ごもり、出産までの日々を<レーベンスボルン>という施設で暮らしている。その施設は「完全なるアーリアン」を増やすため、産婦や子ども達を集めていた。マルガレーテは、芸術を偏愛する医者クラウスに求婚され、エーリヒ、フランツ二人の少年の養母となる。戦争の行われているあいだ、危うい均衡を保っていた寄せ集めの家族は、戦争の終結とともに崩壊した。
第二次大戦が終わってから14年。ゲルトは<国防スポーツ団>に、友人に誘われて入団したが、キャンプ中に脱走する。母親と二人暮しであったが、その母は男と手を取ってアパートを出て行ってしまった。スポーツ団のヘルムートのしつこい勧誘を逃れ、適当に身を置く場所を探すうちに、ゲルトはエーリヒ、フランツの少年二人と知り合いになる。そのころ、クラウスと知り合いになったギュンターは、自分の子を産んだらしいマルガレーテと再会し、一目で恋に落ちる。
前半と後半で時代がかなり違います。登場人物も一部を除いてさまがわり。前半で主な視点であったマルガレーテは、後半では正常な思考を失い、時の流れに取り残されたような状態に。お金もちで軽薄な美青年だったギュンターはうらぶれた中年に。声楽を仕込まれた兄弟二人は、仮装して歌う大道芸人に。クラウスだけが相も変わらず偏執的に美を愛する、尊大不遜な変態ですが。
耽美好きな人にものすごくおすすめ。ボーイソプラノを保つために去勢された美少年と、その兄。古城の地下にある塩の湖と通路。薬物の投与によって成長を早められた美少女と、その双子の片割れ。追い詰められ義理の息子に恋をする母。人体実験。美に異常な偏執を示す、倣岸尊大な医者。作中作の、さらに作中作。
「死の泉」の装丁以外を残らず再現する、作者の細密なこだわりににやりとさせられました。前半のマルガレーテ一人称が、後半で手記になって登場するくだりを読んだとき、それまでの自分を虚構だと言われたような気がしてぎくっとしました。知らずに一人称に共感して読んでいたところを、作中人物に外側から眺められた気分。あとがきの足の謎まで含めて、素晴らしくミステリな一冊。
ただ、どうしてもゲルトとヘルムートが好きになれないので、そこだけ減点。出番も妙に薄いし。
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