岩井志麻子、集英社文庫。

「美貌と才能とお金、そして幸せな家庭。全てに恵まれた「私」は、執筆に専念するため、マンションを借りる」
そして「私」は担当編集者の三浦君がマンションを訪れるのを心待ちにしながら、マンションの隣にある古びたアパートの住人達をモデルに、小説を書き始めた。

割と普通。秀麗で醜悪な筆致は、冷たく乾いた空気の中でも相変わらず腐臭を漂わせているけれど、いつもに比べると大人しめ。その中で、「いずれ檸檬は月になり」では、薄い膜を一枚通したような遠さが目新しい。うっすらと檸檬色に包まれ気が狂いそうなほど歪んだ、夢のような世界。
解説の言葉、「枠物語」が一瞬なんのことか思い出せずに悩んでしまいましたが、確かになるほど、三浦君と私のパートに挟まれた作中作は「枠取りされた物語」という形式を見事に踏襲しています。しかも落ちが(ネタバレ)なので枠は(ネタバレ)重になってます。
長らく伝統として積み上げられ磨き上げられ記号化された「花鳥風月」。芸術家は、美しいそれらに地獄を透かし見ていたけれど、岩井志麻子は逆でした。現実の地獄の上に、絢爛たる「花鳥風月」を見る。解説にも書いてありますが、甘美な地獄を描く岩井志麻子にすれば、それはもう当然の帰結なのかもしれない、と強く印象に残ったのでした。

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