塩野七生、新潮文庫。

「これ誕生日プレゼント〜☆」と友人がくれました。誕生日に塩野七生……。ここだけ聞くとやけにハイソな人生を送っているように聞こえるので不思議。

塩野七生の映画エッセイ。映画鑑賞と読書を同列のものとして育った、イタリア在住の作家が語る映画への愛(と自分の趣味)。
みじんこは、取り上げられた映画のうち、ちゃんと見た数は片手で足りてしまうような人間ですが、それでも大変楽しく読めました。まず感動したのは、語り口の渋さ。漢字の選択といい、送り仮名の使い方といい、古きよき時代の香りがします。ああ素敵だ。映画を通して恋愛も政治も戦争も音楽も文化も、縦横無尽に語る塩野節。ものをつくる人間としての立場から見た映画の姿も面白かったし、イタリアに住む日本人としての視点も面白い。「ゲイリー・クーパーが好きだ好きだ」と愛を語り倒す、昔お嬢さん今作家、という塩野七生は超キュート。
印象深かったのは、「’50年代のハリウッドの最高の美女」エヴァ・ガードナー。世に完璧な美女はいるのもだとかなり長いこと写真を凝視してしまいました。何処にも訂正の余地がない、何処をとっても完璧な美貌なんて生まれてはじめてみました。そのポスターを見ただけで、会ったことも歌を聞いたこともない歌姫に心底ほれ込んで純愛をささげた首吊り判事。名誉とまで言うか!しかし写真を見ればこれが納得せずにいられようか。これは死ぬまでに『ロイ・ビーン』を見ねばと決意しました。
女優の持つ、現実を越える虚構のちから。ヨーロピアン・ジゴロのエピソードにはさすがヨーロッパと感歎したし、若い男なんて二人で一人前みたいなものだから、一人でも存在感充分という年頃になってから一人に絞ればいいのです、という主張には吹き出してしまいました。頭っから尻尾まで、ああそうだ、え、そうなのか、なるほど、それもありだな、と毎回示されるエピソードや考えかたに賛同したり首を傾げたり、考え込まされたり笑ったりと、読んでいる間実に充実しておりました。
要するに、感想や観賞態度というのは本人の価値観その他がまるっとあらわれるわけで、いい物をかくひとは何を書いても面白い、というのはこういうことなのだなあとしみじみ思いました。

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