一度感想を書いたことのある本なのですが、後から後から言いたいことが湧いてくるので書いてしまいます。

『探偵伯爵と僕』森博嗣著、講談社ミステリーランド。
ラスト、伯爵が「ただの大人でしかない」ことにがっくりしたわけです。ここでがっくりしたのは、きっと新太にえらい感情移入していたのと、自分が子供の頃身近にいて欲しかった理想の大人像がひっくり返されたせい。でも、この「がっくり」がなければいけない話だと、つくづくと思うのです。この伯爵のイメージ転覆があるからこそ、新太が(ネタバレ)であったことが余計に響いてくるわけで。現実に対する防衛というのは、強固であるほどかなしい。それほどまでに傷つける何かと出会ってしまったという事実が、壁が補強されればされるほど、かえって際立ってしまう。
新太がどうしてこの事件を物語に仕立てたか、という理由が一番衝撃でした。読んだ当初はあまりにぎくりとした後ろめたいような気分が強くて、感想に書けずに省略してしまいましたもの。時間がたって、ネット上で他のかたの書いた感想を見て、ようやく口にしてもいいかなと思えるようになりました。だってあの理由は身に覚えがありすぎる。(ネタバレ)だから、という理由で殺されるぐらいなら、誰でも良かったといわれる方がまだ公正だとすら感じます。殺されるのは全く御免ですが。あの気もちは、男性には理解できないだろうと決めてかかったいたところへ森博嗣。見直したというかもう「御見それしました」状態。へへー、と平身低頭です。
(ネタバレ)の気もちがわかる、それだけでなく子供の気持ちもわかる森博嗣。新太の理屈は、単純に論理的なだけに「子供のへりくつ」なんですね。外部からの影響を考えに入れてないところが幼稚。それじゃ思考実験だよ、というような風味をたたえていて、自分の子供の頃も似たようなものじゃなかったかなあとちょっと恥ずかしい。ザ・ものしらず。でも、新太が理論的に美しいのも当然で、事件を物語として再構成するだけの頭脳の持ち主なんですよね。(ネタバレ)には頭良い子の不幸みたいな気配もなくはない。
素敵大人と、素敵子供の夏休みの冒険が、あらかじめ失われていると思うと、かなしくなってしまうのです。
いつまで感想を引きずって「その作品について」考え続けるかというのは、その作品がどれほど心揺さぶったかと比例していますね。
森博嗣初心者に勧めるに打ってつけ。

なにか他にも書こうと思ったことがあった気がしますが、まあ思い出したときに書き加えていけばいいか。気が楽でいいです。

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