『ラヴクラフト全集2』
2005年8月22日 未分類 コメント (1)H・P・ラヴクラフト、宇野利泰訳、創元推理文庫。
「クトゥルフの呼び声」
「エーリッヒ・ツァンの音楽」
「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」
古い事件に興味を持つ→その辺に血縁がいる→事件の調査を通して暗黒に肉薄→人生まっくら、のパターンが多いですね。遭遇すればすなわち病院行き。SAN値というシステムを考え出した人は本気で天才じゃないかと思う。
「永遠の憩いにやすらぐを見て、死せる者と呼ぶなかれ
果て知らぬ時ののちには、死もまた死ぬる定めなれば」
おおおおおお!これですよこれ!カッコいい……ラヴクラフトが幻想文学に分類されているのは、内容もさることながらこの美しい文体にもあるのではないか。調べたところによると原文は、
「That is not dead which can eternal lie.
And with strange aeons even death may die.」
ときめく。
個人的には「久遠に臥したるもの死する事なく、怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん」が一番しっくりくるかなあ。わたしの脳内では「死すら終焉を迎えん」よりは「死すら死に絶えん」のほうが語呂がいいんじゃないかしら、など好きな訳を継ぎ合わせた脳内フレーズができあがっております。
1巻と2巻で訳者が違うせいか、2巻は文章がやや地味な感じです。1巻はゴシックの荘重華麗さをこれでもかと惜しみなく見せてもらいました。尖鋭で華やか。一文が長くてだらだら読んでいると意味が取れなかったりします。2巻は地味な分読みやすいですが、それでも昔栄えた港、貨幣の名前をつけられた通り、立ち並ぶ商店の掲げた看板の塗り跡。光の落ちてくる街のたたずまいの描写など、稀に見る美文です。訳の差異を確認しようと思って1巻と2巻を並べて開いたら、なぜかフォントが違っていました。2巻のほうが文字が小さくて読みにくいです。統一しなかった理由がわからない。
「エーリッヒ・ツァンの音楽」は昔々に読んだことがあります。小学生くらいの頃じゃないかしら。アンソロジー形式の本で読んだのですが、一緒に収録されている前後の話より格段に難しく、知らない言葉が沢山出てきたので、これは理解できないとあきらめた記憶が今もはっきり残っています(多分子供向けの世界恐怖文学なんとかという類の選集で読んだのではないかと。レ・ファニュの「白い手」の話と、ポーの「黒猫」と、あとは知らない著者の「緑の目の白い猫」が出てくる話が入ってるシリーズでした。なつかしい、そして気になる。正式なタイトルが解ればもう一度読みたいシリーズです)。大人になって読み直してみた感想は、地図で探した見たけれどオーゼイユという街は見つけられなかった、というのが非常にいい。怪異との遭遇が回想として語られるのですが、なんとなくラヴクラフトらしくなくてロマンチックな気がするのです。昔映画で見たアリスや探偵を思い出します。あと、子供の頃の自分が間違いなく理解できていたことが再確認されて嬉しかったです。内容は理解していても、面白さがわからなかった辺りは未熟者。
「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」
何かに似ている、この語感はどこかで……としばらく悩んでからはたと気付きました。そこに積んであるそれ。『ジョジョの奇妙な冒険』と構造・成分ともに全く同じじゃないですか。聞いたような覚えがるのも当然でした。日本で映画が封切られたときのタイトルのセンスのなさが腹筋よじれるほどおかしいです。「怪談呪いの霊魂」って。怪談……。
読み手には何が起こっているのか一目瞭然、登場自分たちにとっては奇怪極まりない事件を書くのが非常にうまい。外から眺めただけでは理解不能な現象が少しずつ繋がって、これ以上ない明白な真相にたどりつくけれど、それは読み手にとってだけ明白で、登場人物にはほとんど明かされない真実ばかり。「それしかないこと」が認めることもできないほど忌まわしく恐怖に満ちていた場合、人は認識理解を拒否するのです。唯一の長編ということですが、他に長編がないのがとても惜しいできばえ。
「クトゥルフの呼び声」
「エーリッヒ・ツァンの音楽」
「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」
古い事件に興味を持つ→その辺に血縁がいる→事件の調査を通して暗黒に肉薄→人生まっくら、のパターンが多いですね。遭遇すればすなわち病院行き。SAN値というシステムを考え出した人は本気で天才じゃないかと思う。
「永遠の憩いにやすらぐを見て、死せる者と呼ぶなかれ
果て知らぬ時ののちには、死もまた死ぬる定めなれば」
おおおおおお!これですよこれ!カッコいい……ラヴクラフトが幻想文学に分類されているのは、内容もさることながらこの美しい文体にもあるのではないか。調べたところによると原文は、
「That is not dead which can eternal lie.
And with strange aeons even death may die.」
ときめく。
個人的には「久遠に臥したるもの死する事なく、怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん」が一番しっくりくるかなあ。わたしの脳内では「死すら終焉を迎えん」よりは「死すら死に絶えん」のほうが語呂がいいんじゃないかしら、など好きな訳を継ぎ合わせた脳内フレーズができあがっております。
1巻と2巻で訳者が違うせいか、2巻は文章がやや地味な感じです。1巻はゴシックの荘重華麗さをこれでもかと惜しみなく見せてもらいました。尖鋭で華やか。一文が長くてだらだら読んでいると意味が取れなかったりします。2巻は地味な分読みやすいですが、それでも昔栄えた港、貨幣の名前をつけられた通り、立ち並ぶ商店の掲げた看板の塗り跡。光の落ちてくる街のたたずまいの描写など、稀に見る美文です。訳の差異を確認しようと思って1巻と2巻を並べて開いたら、なぜかフォントが違っていました。2巻のほうが文字が小さくて読みにくいです。統一しなかった理由がわからない。
「エーリッヒ・ツァンの音楽」は昔々に読んだことがあります。小学生くらいの頃じゃないかしら。アンソロジー形式の本で読んだのですが、一緒に収録されている前後の話より格段に難しく、知らない言葉が沢山出てきたので、これは理解できないとあきらめた記憶が今もはっきり残っています(多分子供向けの世界恐怖文学なんとかという類の選集で読んだのではないかと。レ・ファニュの「白い手」の話と、ポーの「黒猫」と、あとは知らない著者の「緑の目の白い猫」が出てくる話が入ってるシリーズでした。なつかしい、そして気になる。正式なタイトルが解ればもう一度読みたいシリーズです)。大人になって読み直してみた感想は、地図で探した見たけれどオーゼイユという街は見つけられなかった、というのが非常にいい。怪異との遭遇が回想として語られるのですが、なんとなくラヴクラフトらしくなくてロマンチックな気がするのです。昔映画で見たアリスや探偵を思い出します。あと、子供の頃の自分が間違いなく理解できていたことが再確認されて嬉しかったです。内容は理解していても、面白さがわからなかった辺りは未熟者。
「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」
何かに似ている、この語感はどこかで……としばらく悩んでからはたと気付きました。そこに積んであるそれ。『ジョジョの奇妙な冒険』と構造・成分ともに全く同じじゃないですか。聞いたような覚えがるのも当然でした。日本で映画が封切られたときのタイトルのセンスのなさが腹筋よじれるほどおかしいです。「怪談呪いの霊魂」って。怪談……。
読み手には何が起こっているのか一目瞭然、登場自分たちにとっては奇怪極まりない事件を書くのが非常にうまい。外から眺めただけでは理解不能な現象が少しずつ繋がって、これ以上ない明白な真相にたどりつくけれど、それは読み手にとってだけ明白で、登場人物にはほとんど明かされない真実ばかり。「それしかないこと」が認めることもできないほど忌まわしく恐怖に満ちていた場合、人は認識理解を拒否するのです。唯一の長編ということですが、他に長編がないのがとても惜しいできばえ。
コメント
「緑の目の白い猫」もレ・ファニュだと思います。
会話文の訳が苦手なので出来はいまいちなんですが、訳してみたのがありますので、
お手隙の際にでも読んでみてください。「もろもろのことども」「ASAHIネット」で
ググって、そこの「怪奇小説」セクションの「ドラムガニョールの白い猫」です。
みじんこさんが子供時代にお読みになったのは、こんな話だったはずです。
他にラヴクラフトの中編の訳もありますので、どうぞ。