『合意情死』

2005年9月16日 未分類
岩井志麻子、角川文庫。

「合意情死」と書いて振り仮名は「がふいしんぢゆう」、読みは「ごういしんじゅう」。
順調に岩井志麻子を消費しております。発刊ペースのせいでしょうか、楽しく読み捨てにしている印象があります。ということは、思っているより軽やかなのかしら岩井志麻子。

「華美粉飾」(はでづくり)
「合意情死」(がふいしんぢゆう)
「自動幻画」(シネマトグラフ)
「巡行線路」(みまはり)
「有情答語」(いろよきへんじ)
以上の短編5本を収録。背表紙の解説をそのままひっぱると、
「思惑と欲望がうずまく小市民たちの葛藤を、滑稽(ユーモア)と
恐怖の中に浮き彫りにした、名手による傑作短編集」
ということらしいです。
また「一言で言えば、これは<運命の女>の小説集(解説より)」でもあります。
とりあえずわたしが喜んだポイント。
まず美文。明治大正昭和初期までに漂う、あの懐かしくもロマン溢れる香り満ち満ちています。華やかで古びて埃と黴の匂いがする、薄暗い豪奢な部屋を照らす、闇を払拭し切れない電燈の光。「華美粉飾」が「はでづくり」ってしびれませんか?
登場する女達の美しさ。
「美人絵端書と称される、東京の名のある芸妓を写した端書よりも端整で清楚な横顔がそこにあるのだ。そしてそれは、異国の硝子細工の花瓶の如く繊細で脆く傷つきやすいものに映った」
「赤い革の靴を履いた足は、すっきりときれいに伸びていた。それは五十嵐の全身を踏み躙るように尖ってもいた」
「美しいが嘘つきなのだ」
短編ごとに違った性質の女が登場しますが、その全員が美しい。しかも幸福で陽の当たるような一面的な美しさではなく、妖しかったり不幸そうだったり、寂しそうだったりと幾重にも折りたたまれた襞を思わせる翳のある女が多い。
「巡行線路」が滑稽ながらもハッピーエンド、「有情答語」も主人公が改心するなど珍しい結末のものがあることに驚きました。絶望バッドエンドもいいけれど、こういった展開も素敵。
一番あっと思ったのは「華美粉飾」のテルでした。すばらしい。
『黒焦げ美人』から間を空けずに読んだせいか、世界が繋がっている感じがして不思議な気分です。しかし引き続いているようで違う世界だということがわかると、同じような登場人物がまたいるのかと、マンネリを感じなくもありません。いっそ全つなぎにしてくれたらそれはそれで違う楽しみが見出せるかも。

感想と関係のないメモ。
「思惑」が「おもわく」だということはわかっているのですが、どうしても「しわく」と読んでしまい、「塩飽」と変換されるたびにしまったなあと思うのですが一向になおりません。間違っているとわかっていても、そのままあえて使うのはよくない癖です。

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