『キノの旅9』

2005年10月12日 未分類
時雨沢恵一、電撃文庫。

数字はローマ数字なのですが、機種依存文字なので便宜的にアラビア数字で表記。さて今回のあとがきは、

ぶへえ。

毎回予想を斜め上45度でキリモミ回転していくような発想が素晴らしいです。うっかり飲んでいたお茶を吹き出すところでした。でも帯っていつもついてるとは限らないのでは?なんて野暮なことは言いっこなしですよ!著者近影の「背伸びする筆者」もとてもおかしい。
カラーページの凝りようといい、イラストの置き所といい、版面にこだわったデザインといい、トータルでものすごく気を使ってあるのがよくわかります。隅々まで神経の行き届いた、文庫というのが信じられないクオリティ。「作家の旅」のラスト、決めの台詞と改頁のタイミング、鳩のイラストの三者が内容にがっちりリンクしていて、絶妙の効果です。思わずまたお茶を吹きそうになりました。「続・戦車の話」も、ものすごいタイミングでイラストが挟んであって、もうたまりません。
黒星紅白の描く、線の太い白黒の絵がかなり好き。文章と絵のあった、いい組み合わせだなあ。他に気に入ったエピソードは、「いい人達の夕べ」。伏字の取り扱い方がほんとに上手い。字数に関わらず「×××××」に統一のお約束が最高。内容が想像できるようで見当もつかないこの罵詈雑言、「×××××」が目に入った瞬間からきたよきたよとわくわくします。
「続・戦車の話」ヒトガタ無機物どころか、戦車に萌え萌えする日がこようとは思わなんだ。……そういえば大抵の軍備には萌えることができるじゃないわたし。しまったー。「説得力2」格好いい。

ときどき「別に言うほど深いわけでもすごいわけでもない、むしろ薄っぺらい」という感想を耳にします。その時に思ったことなどつらっと。
ちょっと皮肉で残酷で、美しい世界を、ちょっと変わった世界観で書いてるだけで、それほど設定が深いとか、人生の真理に迫るとか、人間の葛藤の深遠を垣間見せるとかいうことはない、という感想には同意します。が、わたしが面白いと思うポイントはそこではなくて、皮肉も残酷もありがちな程度はあるけれど、それを感傷と自己陶酔にひたらずに淡々と書いている作品というのが珍しいのではないかと思うのです。こういった物語が、自己陶酔の極致のようなべたべたした文章で書かれているのに辟易した記憶があるかたは同意してくださるのではないかしらん。何があっても主人公は傍観者、巻き込まれても自分の安全を最優先して通り抜けていく、そんな物語を他には寡聞にして知らないのです。
この突き放し具合を気に入って読んでいる人もいるのではないかしらーと「言うほど内容は大したことない」という感想を聞くたびに思うわけです。
次の後書きがどうなるのか、今から楽しみでなりません。

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