『黒龍の柩』(下巻)
2005年10月26日 未分類北方謙三、幻冬舎文庫。
上巻がいきなり池田屋の真っ最中からはじまって、一番盛り上がって衰退するところからはじめていいのと驚きましたが、甘かった。主眼は伏見鳥羽以降、大政奉還・徳川慶喜京退去のあとからでした。
下巻は鳥羽伏見の戦いに敗れた新選組が江戸に戻ったところから、転戦を繰り返し、函館五稜郭で「土方歳三」が死亡するまでを斬新な解釈でもって描いています。
どれくらい斬新かというと、甲州から蝦夷地を目指して転戦する土方歳三の目標を「蝦夷地新国家樹立のための慶喜移送作戦」として、西郷隆盛の手の者と暗闘を繰り返しながら北上する脱出劇が展開されています。蝦夷地についても必要とあらば江戸まで戻ったりとまさしく縦横無尽。
「本書の執筆にあたって北方はありふれた史実や常識を繰り返すことなく、その間隙を縫って独自の解釈・視座を打ち出したのである」(解説より)
もしかしたら全部とは言わないけれど、一部こんなことが本当にあったのかもしれないと思わせる展開で、ときどき我に返ってしまった自分が大変興醒めでした。我に返らず最後まで読めばどんなに楽しかったかと、途中で我に返ったことが大変悔しい。考えるんじゃない、感じるんだ!
近藤謎の投降も納得がいく決着がついていましたし、榎本の優柔不断ぶりや大鳥圭介の拙劣さも非常によかった。まさかの島田出ずっぱりには、ついには愛着がわいてきました。狷介な大石の壊れてゆく姿もきちんと書かれるとは思っていませんでした。
下巻で一番重要な位置を占めていた西郷は、ものすごく嫌な感じの化け物として扱われていて、背が高くて細身で陰険悪辣な西郷隆盛像がとても新鮮でした。多かれ少なかれ、いい人として扱われていることが多かった西郷がこれか!とこれもまた斬新で感じ入る。作中でその力を散々に振るいながら、ついに一度もはっきりと顔を見せることがなかったそのありようが、登場人物たちに対してだけでなく、読者に対しても貫かれているのがまた良かった。
主人公の土方歳三は、不撓不屈で実戦指揮なら常勝不敗、剣の腕も立つ、非常に有能で冷徹で熱血な人物で、割とよく見る造形なのですが、蝦夷地に新国家を樹立する夢に賭けているという一点で、全てが何もかも新しい。どんなに戦況が悪化しようと、決して投げない不屈さにむやみに憧れる。
「俺は、侍ではないのだな。ぱっと散ることが性に合わん」
何故に昔自分が、この新選組副長に熱烈に憧れたのかわかった気がしました。
ところで帯なのですが、「こんなにロマンティックな幕末小説があったのか!」という煽り文句も書いてあります。
北方謙三ってハードボイルドなのにロマンティックというおそろしい両立をこなしていますよね。そして北方を「ロマンティック止まらない」と思っている人間が自分だけでないことに安心しました。
上巻がいきなり池田屋の真っ最中からはじまって、一番盛り上がって衰退するところからはじめていいのと驚きましたが、甘かった。主眼は伏見鳥羽以降、大政奉還・徳川慶喜京退去のあとからでした。
下巻は鳥羽伏見の戦いに敗れた新選組が江戸に戻ったところから、転戦を繰り返し、函館五稜郭で「土方歳三」が死亡するまでを斬新な解釈でもって描いています。
どれくらい斬新かというと、甲州から蝦夷地を目指して転戦する土方歳三の目標を「蝦夷地新国家樹立のための慶喜移送作戦」として、西郷隆盛の手の者と暗闘を繰り返しながら北上する脱出劇が展開されています。蝦夷地についても必要とあらば江戸まで戻ったりとまさしく縦横無尽。
「本書の執筆にあたって北方はありふれた史実や常識を繰り返すことなく、その間隙を縫って独自の解釈・視座を打ち出したのである」(解説より)
もしかしたら全部とは言わないけれど、一部こんなことが本当にあったのかもしれないと思わせる展開で、ときどき我に返ってしまった自分が大変興醒めでした。我に返らず最後まで読めばどんなに楽しかったかと、途中で我に返ったことが大変悔しい。考えるんじゃない、感じるんだ!
近藤謎の投降も納得がいく決着がついていましたし、榎本の優柔不断ぶりや大鳥圭介の拙劣さも非常によかった。まさかの島田出ずっぱりには、ついには愛着がわいてきました。狷介な大石の壊れてゆく姿もきちんと書かれるとは思っていませんでした。
下巻で一番重要な位置を占めていた西郷は、ものすごく嫌な感じの化け物として扱われていて、背が高くて細身で陰険悪辣な西郷隆盛像がとても新鮮でした。多かれ少なかれ、いい人として扱われていることが多かった西郷がこれか!とこれもまた斬新で感じ入る。作中でその力を散々に振るいながら、ついに一度もはっきりと顔を見せることがなかったそのありようが、登場人物たちに対してだけでなく、読者に対しても貫かれているのがまた良かった。
主人公の土方歳三は、不撓不屈で実戦指揮なら常勝不敗、剣の腕も立つ、非常に有能で冷徹で熱血な人物で、割とよく見る造形なのですが、蝦夷地に新国家を樹立する夢に賭けているという一点で、全てが何もかも新しい。どんなに戦況が悪化しようと、決して投げない不屈さにむやみに憧れる。
「俺は、侍ではないのだな。ぱっと散ることが性に合わん」
何故に昔自分が、この新選組副長に熱烈に憧れたのかわかった気がしました。
ところで帯なのですが、「こんなにロマンティックな幕末小説があったのか!」という煽り文句も書いてあります。
北方謙三ってハードボイルドなのにロマンティックというおそろしい両立をこなしていますよね。そして北方を「ロマンティック止まらない」と思っている人間が自分だけでないことに安心しました。
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