高村薫、新潮社。

長いこと読みさしで放置していた下巻、ようやく読み終わりました。相変わらず盛り上がってからはノンストップなのですが、盛り上がるまでが重いこと重いこと。格闘いたしました。

そしていったいどう感想を書いたらいいのか途方に暮れます。『照り柿』以降毎回途方に暮れている気がする……。
とりあえず言えることは、理解不能であった現在の日本の政治が、なぜにああもう曖昧に不明瞭で理解を拒むのか理解できました。民衆の要求と体制の鈍重さを政治家がすり合わせ、さし当たっての決断だけで進むその日々が、このような毎日を繰り返し積み上げたのが政治だというなら、この混迷も時代遅れもさもありなん。理解不能な現代日本の政治経済についてのとっかかりとしては十分でありました。
人間が濃い。執拗な描写が一人一人をリアルにぶ厚くしている。主人公の青森の代議士福澤榮は、作者の作り出した架空の政治家であるのですが、作者は別に政治家でもなければ男性でもない、ただの小説家であるというこの驚異。公開されている資料だけで書いて、新聞社やらなにやらの専門筋から「どこから情報を仕入れたのですか」と質問されるその綿密な下調べと精確な想像力!作家恐るべし。今この人にかなう力量の小説家ってどのくらいいるのでしょう。
そして読み手がもの知らずにも程がある政治無関心層ゆえに、日本語として理解できてもどういう意味なのかわからない部分が多すぎです。たとえば「二百海里」が成立した、という一文が言わんするところは、海産物や海底資源に関する利権と縄張りの線引きのし合い、どころか自分に有利なように大国が線を引いてしまった、ということなのですが、こういう風にちゃんと理解できた部分のほうが多分少ないです。おそらく半分くらいなんのこっちゃです。
かなり最初から「息子の優が参議院から知事に転身した」と何度も繰り返されているのに、下巻の半ば、寺の本堂で集まって話を始めた辺りを読んで「これはいったい何がどうなのか」とちっとも仕掛けがわからずに考え込んだわたしはアホです。重森についても既に結果がわかっているのに、どうなるんだろうと思って読んでいました。これは記憶力がないのではなく、書いてあることをそのまま読んだだけでどういうことか理解していなかったよい証拠だと思います。
彰之の語りが中途半端に終わってしまったような気がしていますが、初江さんひどい女だな!ひどいっていうか駄目な女ですね。いや、ひどい上に駄目な女か。しかし男にとって強く気を引かれる女だということはよくわかった。しかし腹立つ。さらに腹が立つのは秋道だけれども、ラストの赤犬の仔を彼の暗喩として考えると、ものすごく暗澹たる将来が待っているのではないかと憂鬱になります。彰之の悟りっていうか明日はどっちだ……。
下巻が残り三分の一ほどになったところで、終わるのかと心配になりましたが、どこで終わっても同じ、あるいは終わりなどないというような気にもなりました。金庫番の自殺の話に焦点が合い、それがきちんと回収されたところで終わっていますが、語り続けようと思えばあと5冊くらいは続いたのではないかと思われます。
次があるとしても優はない。むしろ睦子さんが見たい。次男は次男でしかない器の小ささで、次世代は父親は廃業しても政治家はやめないとのたまった榮に比べるとみな粒が小さくて誰か物語の主人公になれるのかしら。
感想の書きようがないので、読んでいる最中に思ったことのうち思い出せることだけをだらだら書いてみました。感想やレビューを求めてネットを探してみたけれど、参考になる感想は見つけられませんでした。みんなこの本のどこを読んでいるんだ、どこから読んだらいいんだ、ヒントプリィィーズ!

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