『家守綺譚』

2006年10月7日 読書
梨木香歩、新潮文庫。

これ、『グラン・ヴァカンス』と同じ日に買ってきたのですよ。初梨木香歩、初飛浩隆だったのですが、はじめて手に取った作家の本が、2冊とも大当たりってすごい。引きの強さに驚愕しました。こんな体験、今までではじめてじゃなかろうか。
これまた自分の趣味にあわせてあつらえてもらったんじゃないかと錯覚するような本でした。
自分の中ではSFと和風趣味は対極にあって、ただ「美しい」という一点においてしかつながっていなかったのですが、最近「幻想文学」という素敵なくくりがあることを知っておおはまりです。素晴らしいジャンルですよね。美しければオールオッケー、今まで困っていた分類が一挙に解決。

(裏表紙から)
庭・池・電燈付二階屋。汽車駅・銭湯近接。四季折、草・花・鳥・獣・仔竜・小鬼・河童・人魚・竹精・桜鬼・聖母・亡友等々々出没多数……本書は、百年まえ、天地自然の「気」たちと、文明の進歩に掉さしかねている新米精神労働者の「私」=綿貫征四郎と、庭つき池つき電燈つきの二階屋との、のびやかな交歓の記録である。――綿貫征四郎の随筆「烏藪苺記」を巻末に収録


「藪」の字が違うんですが、どうも出ないようなので別の字当てておきました。「綿貫征四郎」が一発変換できるとは思わなくてびっくりした。
この紹介文書いた人も、この手のものが相当好きだと見た。
それはさておき。
駆け出しの文筆家、綿貫征四郎の一人称で語られる、古い家とその周囲に現れる不思議なものたちとの四季折々の暮らしぶり。
学生時代に亡くなった友人の家に、家守として引っ越した綿貫。床の間の掛け軸から、雨の日にボートでひょっこりあらわれる亡友・高堂(高堂も一発変換できる、すごい)。その高堂のすすめで飼うことになる犬、ゴロー。綿貫に惚れているらしいサルスベリの木。隣のおかみさん、ダァリヤの君、竜田姫。
二階建て。電燈はあるけれども当てにならない。縁側はさまざまな植物の植わった庭に臨み、疎水を引き込んだ池の庭には、水に縁のある河童だの鮎だのがやってくる。
純和風家屋あるいは、明治ロマンのおうちに、とっとと楽隠居する野望を抱いている人間には垂涎の的のような家ですねまったく。いっそねたましいわー。
不思議なものたちと綿貫の交流もよいのですが、四季の描写がそれはもううつくしいこと。それは花や木の様子であったり、雪が降ってくる駅舎の寒さだったり、旬の食べ物であったり。アスファルトで固められた都会では失われた空気の匂いが紙面の向こうに横溢しています。
自分を取り巻く環境をこんなまなざしで見ることができる綿貫の造型がやさしくて愉快。ここ一番の名台詞がふたつあって、

「しかしいかな化け物であっても、このように目の前で苦しんでいるものを、手を差し伸べないでおけるものか」

もうひとつはネタばらしになりそうなのと、とても素敵なので読んだ人だけの秘密。
ちゃんと謝りに行くあたり、心根のやさしさがよく出ているよね。

作者のプロフィールを見ると、学生時代に英国で暮らしたことがあるそうで、自覚的な日本への愛に水村美苗と米原万里を思い出しました。うーん、やはり海外に行くのはいい修行になるのか。
同じ日本趣味でも、三浦しをんの『月魚』よりも文章がさっぱりしてて好みかなあ。

高堂のビジュアルが脳内で百目鬼(HOLiC)になっていたのは君と僕との秘密だ。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索