ホルヘ・ルイス・ボルヘス編纂・序文/中西秀男訳

もちろん書いたのはサキですよっと。
そしてわたし長いこと「どうしてサキはサキだけとしか表記されないんだろう?」と不思議に思っていたのですが、ようやくこの年になって知りました。筆名だったのですね。姓名はっきりしない辺り、乙一みたいな感じ?

「無口になったアン夫人」
「話の上手な男」
「納戸部屋」
「ゲイブリエル―アーネスト」
「トーバモリー」
「名画の額ぶち」
「非安静療法」
「やすらぎの里モーズル・バートン」
「ウズラの餌」
「あけたままの窓」
「スレドニ・ヴァシュター」
「邪魔立てするもの」
を収録。

一番目に「アン夫人」を持ってくるなんて、さすがボルヘス……!
サキ未読だったのですが、一撃で参ってしまいました。のっけからむごいオチで素晴らしい話です。しかもそれがトップを切るという、内容と配置の絶妙さに喝采です。
「話の上手な男」と「ゲイブリエル―アーネスト」は読んだことがあるような気がする。優等生でいい子の女の子が、その優等生ぶりを褒め称えるメダルのせいで不幸な目にあう話というのが、他になければですが。「ゲイブリエル」は少年の茶色い濡れた体の様子と、それがいきなり部屋のソファに寝そべっているところと、名前に見覚えが。わたしが読んだときは「ゲイブリエル」じゃなくて「ガブリエル」だったよーなおぼろげな記憶。
しかし「日本語になじまないのでワーウルフ/ウェアウルフはさしあたり『ヒトオオカミ』と訳しておいた」っていつの時代のセンスなんだろう。今なら「狼人間」とかいっそ「人狼」とかいろいろあるじゃない。日本人もだいぶライカンスロープに親しんだよな、と刊行年を見て今思った。(1988年刊行)
「名画の額縁」は何処かで見たことあるなあ、人間国宝指定された男が、自由を奪われてついに博物館で展示されてしまう話を知っているぞ、と悩んで思い出しました。「世にも奇妙な物語」で、職人か職人によって刺青を施された男が、人間国宝に指定され、背中の刺青に傷をつけないようにと自由を制限されまくり、あげくに「生きてると破損する恐れが」と死体(殺されたかどうかは不明)を博物館で展示されてしまうという今思うとそのまんまサキな内容でした。「名画〜」は展示されてしまうよりもっとある意味で辛辣なオチですばらしい。
「ウズラ」も似たような空気をどこかで見たような見ていないようなー、多分「ウズラ」ではないほうに自分で一票。
これも人間心理をついてすばらしい。こういうの大好き。あと、話の筋と人間描写とは別に、こういうお店のこういう買い物のシーンがやけに好きだ。カウンター越しに店主に頼んで量り売りしてもらい、金貨を使うような買い物にはあとで使いをよこし、銀貨なんかで支払うようなそういう時代というか世界観というか。紙幣で支払ったらロマンが失われるそういう買い物風景。
編者にならって、2本選ぶなら「アン夫人」と「邪魔立てするもの」かなー。「トーバモリー」と「ウズラ」も大変捨てがたい。
ていうかみんな好き。
サキ全集とか文庫で出てないかしら……。

そして友人よ、「ヘンリーよりサキ」というその言葉しかと受け取ったー!

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