http://diarynote.jp/d/47804/20070124.html

あらためてちゃんと感想を書きます。
ボルヘスのセンスは、短編集の一発目に何を持ってくるべきか心得ているどころか、何を持ってきたら読者を撃ち殺せるのか知り尽くしてるとしか思えない輝きっぷりです。
「禿鷲」がトップバッターにあるのは周到すぎる。手放しで絶賛してみます。

「禿鷲」
カフカの短編を読むのがはじめてなので、編者が前書きで「短編はカフカを十二分にあらわしうる」というようなことを述べているのを半信半疑でページをめくりました。するとこれだー。
これだけ短いのに途中で、まさか『生きてるか死んでるかはっきりさせてください』『わかった、今はっきりさせる!(銃声)はっきりした!死んでるぞ!で、どうしたらいいんだ?』というジョーク落ちなのかと思ったら、予想以上にひどかった。
乾いていてシニックで、ばっさりとした感触がカフカ長編にはない目新しさで惚れ直しました。そしてあえて短編集をカフカの巻に編んでしまうボルヘスにも惚れ直しました。もうこのシリーズ読むほどボルヘスに愛。
「最初の悩み」
浮世離れしたブランコ芸人の悩みを主眼に、悩みの尽きることのない現実が描かれていてその落差に目をぱちくり。ファンタジーのようなおもむき。なんのつながりもなくエンデの『鏡の中の鏡』を連想しました。
「雑種」
猫と羊の中間の変な生き物。を、どう解釈するかで大変深刻な物語になるそうですが。『長靴を履いた猫』あたりを連想するのはまっとうなのかしら。
「町の紋章」
サイコー。これサイコー。バビロンが待ち焦がれる神の鉄槌。長編が絶えざる中断と延期によってできているという解説を読んだあとだと、この短さの中にどうしようもない延期が詰まっているのがわかってとても素敵。
タイトルは作者ではなく、遺稿から短編集を発行した編集者のセンスらしいですぜ。すごい編集。
「よくある混乱」
すっごい好き。平然と「ある日は10分で行けたのに、なにもかわらない道のりを翌日10時間かかった」とかシュールを通り越して幻想一歩手前なのに、やけにリアリスティックな文章がたまらない。
「ジャッカルとアラビア人」
ジャッカルがくわえてきた、小さな錆びた鋏に心臓を射抜かれました。「これにて幕!」など芝居がかった台詞もたまらん。
「十一人の息子」
十一人の息子を紹介しているだけの話。なのに短編。すごい。だんだん語彙が尽きてきて、すごいとか素敵とかしか言えなくなってくる。
「ある学会報告」
冒頭の、報告します、という宣言が抜群にいい。衝撃的で予想もつかない宣言からはじまる物語。
「万里の長城」
なんでドイツ人が、中国の皇帝信仰を理解しているのかそこが一番不思議。わたしはよく似た天皇制のある日本の人間だからまだ理解が及ぶのはさほど不思議ではないのですが、ドイツヨーロッパなのになんで中国のこの民衆のありようを見てきたように書けてしまうのかなあ。
あっ、ドイツも一時期帝政でしたっけ。
いやでも国同士が隣接しまくってるあのヨーロッパで、なんで中国の広大さを読み手が「そんなに広いのかー」と感心するほど書けてしまうのか。もはや想像を絶する作家のわざです。

文庫でカフカの短編集があるという情報を仕入れたので、買おうと思いました。
カフカは読みにくいので、はじめて読む人は長編より短編から入ったほうがいい、というかもっと短編の存在と素晴らしさについてアピールするべきですよいろんな人。
これを最初に読んでいたら、今頃までだらだらカフカーカフカーどうしようかなー、と言いながら集めてなかったと確信できる。

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