〈残酷物語〉の待望の新訳7篇を収録。数ある短篇小説の中でも屈指の傑作とボルヘスが言う「希望」。中国を舞台にした奇譚「ツェ・イ・ラの冒険」。他に、「暗い話、語り手はなおも暗くて」「ヴェラ」「賭金」等。


何が「間違えて次の次の巻」ですかしらね!ナンバリング見て落ち込むことはなはだしいわたくし。
残念ながら「残酷物語」を読んだことがないのですが、たいそう素敵でした。確かに序文でボルヘスが言うとおりポーっぽい。
「リラダンはパリで、ちょうどボードレールが悪と罪とを弄んだのと同様に、冷酷という概念を弄ぶことを望んだのであった」
この通りです。「希望」はそのまま「落とし穴と振子」の精神的対比であります。が、希望こそがもっとも残酷な地獄のどん底であることを知っている現代の我々ではこれ冒頭でオチが割れちゃうんだよなー。その意味では「落とし穴と振子」のほうがおっかない。
でも文体がちょう好みなんですよ……。なにこれ。この羅列の仕方というか一文の長さと癖。
寝そべったまま、男は、入り口すれすれの所まで這って行った。まさしく廊下だった。だが、桁外れの長さである。青白い光が、幻のような光が、廊下を照らしている。丸天井からぶらさがっている豆ランプが、大気のくすんだ色を、時おり、青く照らしていた。奥まった所にあるのは、闇だけである。しかも、この拡がりのなかにあって、側面には、扉一つない。

この幻想極まる廊下の描写よ!
囚人が明日行われる激烈な死刑を前に、最後の希望に縋ってこの廊下を逃亡するのですが、極限の恐怖と不安とを抱いて這ってゆくのがこの廊下ですよテンションあがる。
しかし白眉はやっぱり「王妃イザボー」でしょう。
「濃艶の美形であったから、放蕩に身を持ちくずしても、なお、色香が衰えない女」
こういう女がいるから文学作品を読むのはやめられない。最近でこれを上回る「うおおおおお」はちょっとないです。
美しく若い娘への嫉妬から、館に火をかけて男を陥れ、情事の後の寝台の上で裏切った愛人の頭を裸の胸に抱きながら死刑宣告を行う女。
「おお、わたしの美しいいのち」
死刑宣告されても夢から覚められない若い男の愛人。
これはもうしょうがない。車裂きにされるしかない。こういう怠惰と倦怠の、凋落の気配を漂わす美形にしどけなく横になった長椅子の上から指先ひとつで「つい」っと死刑を宣告されたい。
そしたらもう爪先に額をこすりつけてうっとりしながら死にましょう。

序文の「自分は魂を失ったと暗黙のうちにわれわれに告白する」というボルヘスの解説があまりに寸鉄でもだえる。
表題の「最後の宴の客」が訳のせいなのかやたら読みにくかったのだけが惜しい。

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