斎藤環、日本評論社

レビューサイトで引用されていた、やおいについての考察が素晴らしかったのでずぎゅーんときて買いました。具体的にここです。
それでは女性おたく、すなわちやおいの人々は、何に『萌える』か。そもそも彼女たちは、あまりこうした表現を使用しない。しかし榎本氏によれば、やおいの人々は『位相萌え』なのだという。(中略)『位相』とはすなわち、関係性の位相を指している。ある少年もの漫画作品において、男同士の友情や確執といった関係が描かれるとしよう。彼女たちが熱く注目するのは、まさにこの関係性なのである。そこに描かれた微妙なしぐさ、視線、せりふ等々の断片から、こうした関係性をいかに恋愛、すなわちホモセクシュアルな関係性の位相に変換するか。これこそが、やおいにおける普遍的テーマにほかならない。
第2章「『おたく』のセクシュアリティについて」からの引用なのですが、腑に落ちる+核心を突かれる=腑を突かれるようなショックでした。
位相の読み替えかー。つまり、読み替えが難しいほど萌えの強度があがるということですね。嘘ですけど。商業BLには全く食指が動かないけれど、二次妄想ならいける人がいる理由も、「狙われると萎える」という発言の意味も、ライトおたくな腐女子層とやおいなねーさんがたのゆるやかな棲み分けラインも、全部この解釈で説明可能ですね! 嘘ですけど。
ちなみに、この「榎本氏」は漫画家の榎本ナリコのことです。そういえば評論活動もしてましたね。単行本にまとまってるとは知らなかった。『センチメントの季節』のあとがきがすごい切れ味だったのを思い出し、深く納得しました。
それはさておき本書の感想です。
このレベルの切れ味が全編に横溢している妄想によだれ垂らしつつ購入したのですが、いろんな事象に広く浅く当たっているため、ちょっと物足りなかったです。面白いことは間違いないんですけど、もっとねっちりがっつり一つのテーマを掘り進めて欲しかった。常から分析妄想にひたっている当事者=オタクそのもの、な人には再確認以上の意味はないかもしれません。あと、専門用語が多すぎてときどき涙目でスルーしなければならないポイント多発。たとえば、
「言い換えるなら、男性は自分の立ち位置が崩されることを恐れる。バリントのいわゆるオクノフィリアとフィロバティズムの対比がただちに連想されるだろう」
とか。バリント以下が全くわからないので華麗にスルーしたのですが、家主に読ませたところ「わからないどころか全部の単語が生まれてはじめて見るんですけど」と言われました。
なんとか読了はしましたけど。とりあえず趣旨を掴むだけならさして困らないのではなかったでしょうかしら?
・「なぜ母親は、発掘した息子のエロ本・ビデオをきちんと整理整頓して机の上に置くの?」という疑問がスマートに解決されていて、笑うところじゃないのに吹きました。
・ヤマギシ会という単語が懐かしく目に映ります。
・ショタコンが男性向けと女性向けの融合する極北だというのはものすごい頷ける。
・フロイトの髭親父めー
・本旨と直接関係はないのですが、大人は「死」というタブーについて子どもに質問されたときに、ちゃんと応じることができるように心構えしておいて欲しい。別に答えはなくていいんです。応じて欲しいんです。そうですか異端ですか。くそう、どうせ異端さ!
・東浩紀は必読なのかなあ……。ううう。
・それ以前の問題として、辞書を買うべきかもしれない。実は哲学事典をもっていないという罠。

2007年まとめ

2008年1月3日 読書
あ行
『猫の地球儀』焔の章・幽の章 秋山瑞人、電撃文庫
『羅生門・鼻』芥川龍之介、新潮文庫
『TOY JOY POP』浅井ラボ、ホビージャパン
『されど罪人は竜と踊る』浅井ラボ、スニーカー文庫
『灰よ、竜に告げよ』同上
『災厄の一日』同上
『くちづけには長く、愛には短すぎて』同上
『そして、楽園はあまりに永く』同上
『追憶の欠片』同上
『まどろむように君と』同上
『されど罪人は竜と踊る Assault』同上
『Dクラッカーズ+プラス』あざの耕平、富士見ファンタジア文庫
『Dクラッカーズ ショート』新装版1〜2巻 同上
『Dクラッカーズ』新装版1〜7巻 同上
『私家版 日本語文法』井上ひさし、新潮文庫
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』1〜3巻 入間人間、電撃文庫
『嫌な女を語る素敵な言葉』岩井志麻子、祥伝社文庫
『百鬼園随筆』内田百?、旺文社文庫
『ばいばい、アース』1〜3巻、冲方丁、角川文庫
『スプライトシュピーゲル』1〜3巻 冲方丁、富士見ファンタジア文庫
『オイレンシュピーゲル』1〜2巻 冲方丁、角川スニーカー文庫
『カオスレギオン』無印〜05巻 冲方丁、富士見ファンタジア文庫
『マルドゥック・スクランブル』1〜3巻 冲方丁、ハヤカワ文庫
『マルドゥック・ヴェロシティ』1〜2巻 同上
『「世界征服」は可能か?』岡田斗司夫、ちくまプリマー新書
『中国怪奇小説集』岡本綺堂、光文社文庫
『沈黙博物館』小川洋子、ちくま文庫
『薬指の標本』小川洋子、新潮文庫

か行
『眠れる美女』川端康成、新潮文庫
『旧怪談 耳袋より』京極夏彦、メディアファクトリー
『前巷説百物語』京極夏彦、角川書店
『すぐそこの遠い場所』クラフト・エヴィング商会、ちくま文庫
『老人のための残酷童話』倉橋由美子、講談社文庫

さ行
『博士の奇妙な思春期』斎藤環、日本評論社
『墨攻』酒見賢一、新潮文庫
『キノの旅』11巻 時雨沢恵一、電撃文庫
『学園キノ』2巻 同上
『世界悪女物語』澁澤龍彦、河出文庫
『そのケータイはXXで』上甲宣之、宝島社文庫
『地獄のババ抜き』同上

た行
『人類は衰退しました』1〜2巻 田中ロミオ、小学館ガガガ文庫
『砂はマのつく途の先!』喬林知、角川ビーンズ文庫
『象られた力』飛浩隆、ハヤカワ文庫

な行
『よろづ春夏冬中』長野まゆみ、文春文庫
『DDD』1〜2巻 奈須きのこ、講談社BOX

は行
『狼と香辛料』1〜6巻 支倉凍砂、電撃文庫
『アラビアの夜の種族』古川日出男、角川書店
『gift』古川日出男、集英社文庫
『13』古川日出男、角川文庫
『沈黙/アビシニアン』同上
『超妹大戦シスマゲドン』古橋秀之、ファミ通文庫
『冬の巨人』古橋秀之、徳間デュアル文庫

ま行
『屍の王』牧野修、角川ホラー文庫
『ネクロダイバー 潜死能力者』同上
『楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史』牧野修、ハヤカワ文庫
『太陽の塔』森見登美彦、新潮文庫
『記憶の絵』森茉莉、ちくま文庫
『薔薇くい姫/枯葉の寝床』森茉莉、講談社文芸文庫

や行
『夜光虫』横溝正史、徳間文庫
『殺人鬼』横溝正史、角川文庫

ら行
『天を決する大団円(上)』ろくごまるに、富士見ファンタジア文庫

わ行
なし

海外
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』フィリップ・K・ディック、朝倉久志訳、ハヤカワ文庫
『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン、市田泉訳、ハヤカワ文庫
『新アラビア夜話』スティーヴンスン、南條竹則・坂本あおい訳、光文社古典新訳文庫
『七王国の玉座』1〜5巻 ジョージ・R・マーティン、岡部宏之訳、ハヤカワ文庫
『変身/掟の前で 他2編』カフカ、岡沢静也訳、光文社古典新訳文庫
『あなたの人生の物語』テッド・チャン、朝倉久志訳、ハヤカワ文庫
『サキ短篇集』サキ、中村能三訳、新潮文庫。
『呪われた町』上下巻 S・キング、永井淳訳、集英社文庫
『予告された殺人の記録』ガルシア=マルケス、野谷文昭訳、新潮文庫
『タイタス・クロウの事件簿』ブライアン・ラムレイ、夏来健次訳、創元推理文庫
『カフカ短篇集』フランツ・カフカ、池内紀編訳、岩波文庫
『【バベルの図書館 15】 千夜一夜物語 バートン版』
『【バベルの図書館 14】 ヘンリー・ジェイムズ -友だちの友だち-』
『【バベルの図書館 13】 レオン・ブロワ -薄気味わるい話-』
『【バベルの図書館 12】 マイリンク -ナペルス枢機卿-』
『【バベルの図書館 11】 E・A・ポー -盗まれた手紙-』
『【バベルの図書館 10】 蒲松齢 -聊斎志異-』
『【バベルの図書館 9】 メルヴィル -代書人バートルビー-』
『【バベルの図書館 8】 H・G・ウェルズ -白壁の緑の扉-』
『【バベルの図書館 7】 ヴォルテール -ミクロメガス-』
『【バベルの図書館 6】 オスカー・ワイルド -アーサー・サヴィル卿の犯罪-』
『【バベルの図書館 5】 ジャック・ロンドン -死の同心円-』
『【バベルの図書館 4】 カフカ -禿鷲-』

その他
『ツリーハウスで遊ぶ』ポーラ・ヘンダーソン、アダム・モーネント、日本ツリーハウス研究会&柳田亜細亜訳、二見書房
『バカドリル いくよ』天久聖一、タナカカツキ、扶桑社文庫
『岩石と宝石の大図鑑』誠文堂新光社
『人体の不思議〈第1巻〉支える、動く 骨・筋肉系』メディッシュ/丸善
『バカ日本地図』一刀、技術評論社
『Fate/zero』1〜3巻 虚淵玄、TYPE-MOON

2007年のまとめは五十音順にしてみました。
なんとか100冊超えました。去年立てた目標のうち、『山尾悠子作品集成』と「海外SFにも手を出してみる」「もっとラノベを買う」を達成。
割と目論見どおりに読めたと思います。
購入日記にタイトルが挙がっているにもかかわらず、このリストに載っていない本に関しては「積んだ」としか申し上げようがございません(2冊ほど買って読んだけど書いてないのもあります。危険なので)。
タイトルから各記事へリンクが張れたらいいかも、と思いましたが面倒極まりないのでやっぱりこのままでいいです。

2008年の目標は「100冊積む」ですかしら。
スティーヴンスン、南條竹則・坂本あおい訳、光文社古典新約文庫

まったく光文社は素敵なレーベルを創設してくださったものです。
繁栄をきわめたヴィクトリア朝のロンドンは、いかなる冒険が待ち受けるかわからない魔法の都。本書は、各篇の主人公が謎と陰謀のさなかに引きずりこまれる、「狐につままれた人の乗合馬車」なのだ。(帯より)
理由なき自殺者が集うロンドンの夜。クリームタルトを持った若者に導かれ、「自殺クラブ」に乗り込んだボヘミアの王子フロリゼルが見たのは、奇怪な死のゲームだった。美しい「ラージャのダイヤモンド」をめぐる冒険譚を含む、世にも不思議な七つの物語集。(背表紙より)
『宝島』の著者が書いた19世紀ロンドン版「アラビアンナイト!」(帯より)
ボヘミアの王子フロリゼルを狂言回しに、ロンドンで起こる不思議な事件を複数のパート・主人公で語る物語。
事件ごと、更にエピソード・主人公ごとに区切られたパートと、パート間のつなぎが実にアラビアンナイトらしいつくりです。まさに19世紀ロンドン版アラビアンナイト。
感想を探してネットをうろうろしてみたのですが、言われてみればちょっと懐かしい探偵小説の香りがそこかしこに感じられますな。
とは言え探偵役のフロリゼル殿下は、金と権力で事件を片付けてしまうので、推理とか証拠とか本格とか、そういった単語は出てきません。
冒頭の「クリームタルトを持った青年が酒場を回っている」という奇想天外さに、作者の自信のほどがうかがえます。こんな無茶な出だし、自信がなければとても書けない。
「スティーヴンスン」という名前にまったく見覚えがなくて、著者の紹介を見るまで、素ではじめて読むなあと思っておりました。「宝島」「ジキル博士とハイド氏」の作者だなんて知らなかったわよ。
牧野修、角川ホラー文庫

下半分が白いんだぜ!
「文庫読み放題」ほか携帯サイトに掲載された人気作品待望の文庫化!(文庫背表紙より)
あーあーあー。
牧野修のテキストは、その無駄な過剰さこそが売りだと信じてやまない派には大変しんどい事態です。
選ぼうよ、作風とか売り方とか売る場所とかそういう色々を選ぼうよ!
当たり外れの大きい人だから、頭を抱えるくらいで済んだのが不幸中の幸いでした。

・どうして家庭的、というと娘を溺愛する父親になるのか
・暴力暴力。グログロ。
・もしかして続くのかこれ……。
・携帯と文庫じゃ形態が違いすぎると思うの! やめて、もうみじんこのライ(以下略)。
冲方丁、富士見ファンタジア文庫

大変すばらしくとてもえげつなく楽しゅうございました。
おまけ小劇場は笑いが止まりませんでした。
ハイテンションのままに箇条書き。

・水無月はアホだアホだと思っていたら、アホを通り越してアホ可愛いの領域に突入した。いいぞもっとやれ、可愛いぞ。いや、アホ可愛いというか馬鹿可愛い?
・スプライトは登場人物が多いので、その分個々のエピソードが分断されがちで、薄味な印象が拭えんなー、と思っていましたが、今回はその登場人物の多さが生かされた展開がナイス。スプライトもなかなかやるなあ。
・ヘルガ>シャーリーン>スプライトの面々、という順列で愛を注いでいたのがひっくり返ったよ! シャーリーンは大好きなまま、鳳以下小隊の面子がものすごい追い上げてきたー。
・いつも思うんだけど兄やばい人。
・おじさんが確保されたらオイレンのみんなはどうするのさ! えええー?!
・「連射しました。」のルビが「タタタタタタタタタタタタタン!」って気が狂ってる。いいぞもっとやれ。
・「メルヒェンらしい残酷さで皆殺しになりました」
・「うわぁーっ、うわあああーっ!」が何故か腹筋つるほどツボに入って大変でした。どこかでで見たことがあるテンション。あ、ええと、岡田あーみん?
 暗い森で、鬨の声が上がります。銃火が閃きます。クレイモアが炸裂します。チョッパーが回転翼を唸らせます。機銃掃射です。航空戦術支援です。突撃です。「ホテル・エコーを要請、ホテル・エコーを要請」ノームが通信機に向かって叫びます。「地図方眼チャーリー四〇五の二二一地点で敵軍多数と交戦。効果的砲撃を求む」たちまち榴弾の雨が降り注ぎます。高性能爆薬の爆風がまま母の兵士ともども木々をなぎ倒します。
・イラストのはいむらきよたかって、禁書目録の灰村キヨタカ? なんで名前の表記が2種類あるんでしょう。今の今まで気づかなかったじゃないですかさー。
・一言にまとめれば、いいぞもっとやれ、に尽きます。
冲方丁、富士見ファンタジア文庫

買った理由は「作者買い」「冲方丁だから」以上。
では以下てきとうに箇条書きで感想。

『カオスレギオン 聖戦魔軍篇』
・自分内通称は「無印」
・冲方丁だから、レーベルの範疇を超えに超えた、予想もつかない無茶をしてくれているに違いない、と思っていたら、ものすごい普通で驚愕しました。
・なんという富士見ファンタジア文庫。レーベルの見本かと思うような具合です。
・イラストもまんま富士見ファンタジア王道で、包帯とトーンなしでの効果・処理に変な笑いが止まらない。そういえばかつてあらいずみるいですらこんな線だったわー。
・結賀さとるだなんて、名前見るまで気づきませんでした。

『カオスレギオン0 招魔六陣篇』
・無印に加えて、ゼロからはじまる、ナンバリングと2冊のずれを見せる恐ろしいカウント。
・本編はシリアス長編書き下ろし、番外はギャグ短編連載、という例の鉄の掟が発動してるっぽい。
・シリアスとギャグを無理無理接いだようなバキバキ感が溢れています。ぶっちゃけ「お悔やみ」とかキャラ違いますね。

『01 聖双去来篇』
・ドラクロワはツンデレ。ジークもツンデレ。もうそれでいいじゃない。
・ドラクロワが出てくるたびに、変な笑いが止まらない。もう突っ込みどころが多すぎるこのひと。
・ドラクロワが美形なのは、ポジション的にお約束かつ必須ですが、ジークに「美貌」連呼されるたびになんとも言えない気持ちになります。素直に「美形主人公かっこいいー」と思えない大人になりました。
・この作者が徹底的にやらかすのを見て見たいようなおそろしいような。

『02 魔天行進篇』
・カヤかわいいよカヤ。
・短編じゃないです長編です。いつの間に。

『03 夢幻彷徨篇』
・記憶が失せることによって気が狂うエピソードは大好きです。あれとかあれとか。いいぞもっとやれ。
・どうせなら徹底的に姉妹を不幸に設定してたらなー、と思わないでもないです。姉が憎まれ役ですらなかったら、どんな酷い話になってたかしら。
・だんだん分厚くなっていってませんか。ファジー機能ですか。

『04 天路哀憧篇』
・このカラー口絵、どう見ても死亡フラグ立ってますけど……。読む前から不安になります。
・ノヴィアがかわいいので和む。今日からお前のあだ名はのびたで決まりね。
・ネクタイ?
・なにこの厚さ。

『05 聖魔飛翔篇』
・レティーシャが萌えキャラ化。レオニスに死亡フラグ。
・最初の頃のおとなしさが嘘のようにグロ多発。いつ誰が嬲り殺されるのかドキドキします。
・シーラの出番がどんどん薄くなっているような。

まとめ
・物語の内容も大事だけど、それをつむぐテキストも大事。自分の好みにあったテキストは、それだけで幸せになれる魔力に溢れています。記号連発もいいけど、記号のないテキストも好きなんだぜ。
さくさく読めて楽しいって素晴らしい。
でもメイン男が美貌連呼されすぎです。
・「50枚が1800枚」って、それもうファジー機能の領域をはるかに超えて、何か別物になっていると思います。だんだん太くなって行くのを目の当たりにしてもなお、この限界突破振りには目を見張りました。

・ほんの好奇心ですが、冲方丁は一回その手の趣味の人を全力でタゲってみたらどうでしょう。爆釣じゃないかしら。
ジョージ・R・R・マーティン、岡部宏之訳、ハヤカワ文庫

「炎と氷の歌」という超大作の第一部。5巻完結。
4巻まで読み終えたところで、あと1冊しかないのにどうやって完結? と首をかしげたわけですが、5巻に入ったら大事件が連続して「あったこと」にされていて目が点。
1冊読み飛ばしたかと思いました。
で、読み終わったら更にたいへん。
終わってねえー!
第一部完、というからにはひと段落ついてるだろうと思ったら、全然ひと段落ついてませんでした。
これ「上巻終わり。下巻に続く」っていうくらいの切れ目ですよ。
あとがきによると、作者が「登場人物の誰一人として安全ではない」と言っているそうです。うわさには聞いていたけど本当に殺す気まんまんですね!
ちなみに、1巻読了時点で立てた自分内死亡予想は半分くらい外れました。意外とみんなしぶとく生き残るものですね。××××と××××は予想外でしたけど。
予想外といえば、いい雰囲気の翻訳が突然「胸がキュンとする」と言い出しときには目をむきました。××××が死ぬよりも「胸キュン」のほうが予想外すぎます。

ネタバレしないように、内容に触れないで感想を書いたら大変ろくでもない小話ばかりです。
せっかくなので自分にとどめ。
カバー折り返し裏表紙側の著者近影は、口からいろいろ噴出すること必至ですよねー。
耳尖ってないのがふしぎ。
絶対こいつ水に沈むぜ! やたら手が器用で武器なんかの鍛造が得意で、体型は樽だ!
と、往年の傑作『指輪物語』所有者と意気投合しました。
超すいません。

『猫の地球儀』

2007年10月6日 読書
秋山瑞人、電撃文庫

  海が、



各所で屈指の名場面として挙げられているここが、どうしても気になって買いました。
超絶ネタバレだ! 知らずに読めばもっとすごかったのに!
でもこの場面を挙げているひとたちのおかげで読めたので、プラマイゼロどころか感謝しないといけません。
登場人物は猫とその相棒のロボットだけ。人間いない。人物はきっと「ひとともの」ってことだよと自分を説得する。
2冊目の帯にある「あたたかくて/おかしくて/涙がとまらない」という煽り文句には微塵の嘘もありませんが、どっかに「容赦無い」って付け加えておいたほうがいいと思う。
聖剣伝説1以来、頭の弱いメカにとても弱いです。震電は泣き要員。
読むまでは、少女型メカと、相棒の猫の話でどうせ萌えロボット主体なんだろうと思ってたら全然違いました。むしろ出番が一番少ないのはクリスマスじゃ……。
物語の内容がいくら好みでも、文体が好みでないとストレスたまることに気がついて以来、ラノベは中身を確認してから買ってるのですが、今回は現物見ないでいきなり注文したので結構博打でした。しかしかなり好みの文体で楽しく一気読み。勝った。とても勝利者の気分だ。
最近どうも「物語のためなら登場人物は重要度に関係なく死亡するよー」という作者に当たってばかりです。いいぞもっとやれ。
「右前足の先をハンマーで」のところで震え上がって『マルドゥック・ヴェロシティ』を連想しました。同じことを考えたひとがいたら色々と語り合いたいです。
テンプレながら坊主のじーさん大好き。
作品の内容とはまるで関係ないですが、この本を買うまでずっと「あきやまみずと」だと思ってました。「みずひと」なのかー。
公式サイトで紹介がないってどういうことなのよー!

アラビアンナイトからの抜粋でした。ひたすら旅を続け、天使や魔神に出会っては驚き、泣きじゃくり、果物や素晴らしい料理を食べ、と平坦にもほどがある展開を1冊読み通すのは結構しんどいです。
金曜日の入浴をはじめ、宗教的にどういう意味を持つのかいまいちわからないことが多いので、なんとなく読み流す。
それにしても、敵対する軍隊の皆殺し具合は容赦なさすぎてびっくりしました。
「象ごと乗ってる人間を打擲したら、潰れて象と人間の区別がなくなった(うろ覚え)」とか。さすが宗教戦争で屍山血河を築くだけあるぜー。

翻訳者であるバートンの経歴がものすごい。人間それ自体が物語のような人だ。

マイリンクの次はブロワだったのに、並びがぐちゃぐちゃになってるの気づかずに飛ばしちゃったのでした。
奈須きのこ、講談社BOX

信者にもいろいろあるけれど、そのうちには賛美する信者と罵倒する信者の二種類があって、わたしは確実に後者なのであるなあと思っておりましたが、何かの拍子に前者にシフトしそうで怖いぜ奈須きのこ。

・わあ太い。分厚くなったわねー。
・箱の背中を見て、
其は恒温の最高速。
不滅を矜る灼熱の揺り籠。
にかっくいーと唸った自分の中二病ぶりに呆れるやら微笑むやら。
・箱から取り出して開いたら、やっぱりおしゃれで目に悪い字体でがっくりき、しかしなんだか前巻と印象が違うので首を傾げつつページをめくっていったら、目次のところに「本文使用書体」が書いてあった。
ちなみに、漢字部分が「I-OTF 新隷書 Std M」ひらがな部分が「KR くれたけ M」だそです。
予想より読みやすい。
個人的には、上記の背中の文句なんかに使用されている明朝体っぽい書体のほうが好きなのですが。
・「S.vs.S」がなげえ。
・全体にギャグっぽいのりの地の文が楽しいです。シリアスよりこういう軽い調子であほなことをのりのりにやってるときのほうが好き。
・説明文から胡散臭さが消えた!なんてことだ!
・野球盤の説明が愛に溢れすぎ。かわゆいなあ。
・大詰めでの見開きイラストは卑怯、卑怯。不覚にも涙が出ます。
・なんで野球?

・日守秋星とその標的はキャラ立ちすぎ。
・そういえばみんなとち狂った名前だけど、何か意味があるのかしら。

・アンケートはがきがおしゃれデザインって、確実に勝負するところを間違えている。

感想めぐりしていたら、「大人の女性のキャラ造型ワンパターンすぎ」という突っ込みを目にしました。言われてみれば美人で暴虐で最強で大食いって同じすぎだ。
3巻が楽しみになってきました末期症状。
倉橋由美子、講談社文庫ー。
鬼に変貌していく老婆を捨てた息子と、その嫁の意外な末路とは……。「姥捨山」や、織女と牽牛の「天の川」といった、有名な昔話をベースにしながらも、独特の解釈で綴られた10の物語。大ベストセラー『大人のための残酷童話』の著者が。性欲や物欲、羞恥心といった、人間の奥底にひそむ情感を見事に描きだす。
カバー背表紙よーり。
「ある老人の図書館」はバベルの図書館を彷彿とさせてとても素敵なのですが、それ以外は、わかりやすいのはいいんだけど、そのせいで面白みが薄いです。
『パルタイ』の、女子寮での暮らしとか、しいたげられる犬っぽい生き物とかは、わけわからなくても面白いし強く印象に残ってますもの。
露悪趣味なのはよくても、安直なのはいかんよね。
『大人のための残酷童話』までがボーダーラインでしょう。
元ネタがわからない話が結構あります。
カバー背中の解説は、お手本のように駄目どうでもいい説明ですね。
時雨沢恵一、電撃文庫。

2回目になるとやはり1巻ほどのインパクトは感じられませんでした。
あと、パロネタの選択が微妙です。もうちょっとネタは選ぼうよ!
木乃と茶子せんせいがかわゆすぎる。
軍ネタのプリントパジャマは売ってたら欲しいですよね。欲しいよね。欲しいわ。

作中で語られる陳腐な少年の夢が、テンプレ王道いい話すぎて涙が出ました。こんな擦り切れたネタで泣けるわたしがアホです。

スペインの雨は主に平野部に降る。
The rain in Spain stays mainly in the plain.
浅井ラボ、角川スニーカー文庫

かなーり前からかなーり気になっていたのですが、なんとなく手をつけそびれていた「され竜」買ってきました、そして読みました。

作中作引用をのぞく開始1行目から嫌な既視感。あ、きしかん一発変換で出ないんですね。
この「號っ!」ってなんか見たことあるどこかで確かに見た。なんだろう、と首を傾げつつ読み進めて、11行目の

「銀嶺氷凍結息っ!」

で死ぬかと思いました。
太字の強調でそれはない。
嫌な冷や汗よりも壮絶な恥ずかしさに本を放り出して悶絶したのは本当です。
「こ、これは……っ」と声にならない声が、むしろ脳内に文字で浮かびました。
なんで恥ずかしいかは過去の自分に尋ねるといいですよ。わからないひとは幸せな、清らかな人生を歩んできたのですね。ねちねちと自分設定をノートに(これ大事。あくまでノート。あくまで手書き)細密に偏執的に膨大に書き連ねていた人は、まず間違いなくわたしと同じ恥ずかしさを味わったと確信します。
壮絶な恥ずかしさに耐えて読書に復帰したところで思い出したんですが、この「號」一文字を捕らえてマイノリティと誇りと挫折について読書感想文を仕立てたサイトさんがありましたね。今探しに行ったらもうなかったのでものすごく残念です。せっかくこうして小説本体を読むことができたのに、あの素晴らしいネタ感想文をもう読むことができないなんて! 残念至極であります。

そしてその後に続く過剰そのものな戦闘の描写にがっちりハートをキャッチされました。うわーい。趣味がもろばれー。
こういう無駄に過剰でみっしりなテキスト大好き。
次の章の冒頭の列車通勤風景もそれはもう素敵。完全な中世ヨーロッパ風ファンタジーかと思ってたら妙に現代っぽく予想を裏切られました好き。
ここからはもうにやにやしながら既にのめりこんでおりました。まる。
猊下超いいよ根性捻じ曲がった眼鏡権力者がお茶目だとご飯がすすみます。
ニドヴォルクも好みのタイプで大変嬉しい。
あと、椅子。椅子、椅子?!
椅子なんだ……。

最近、ファンタジーを読んでるはずなのに、売り浴びせだのトリニトロトルエン通称TNTだの、なんだか予想もつかない単語が飛び交う本ばかり読んでますとても幸せです。
このやりたい放題具合がとても好ましい。
あと、久しぶりに常用外っぽい漢字を乱発・登録したので、投稿した後に派手に文字化けしていないかちょっぴり心配です。

わたしなんでこんなにテンション高く熱くキーボードを叩いているのだろう……。
愛か、愛なのか。

読んだ本メモー

2007年5月20日 読書
『呪われた町』S・キング、集英社文庫。一気読みしたわけではないです。風邪で寝込んでるときにちまちま進めました。なんてチョイス。そして「stephen」のどこが「スティーブン」なのか教えてエロい人!ゾンビかと思ってたら吸血鬼でそらーびっくりした。勘違い恥ずかしいネ!

『Dクラッカーズ1』あざの耕平、富士見ファンタジア文庫。今日買ってきた新装版のほうねー。ミステリー文庫用にそれっぽい仕立てにしてあるだけで、内容はやりたい放題のまんまファンタジア文庫でした。脳内ビジュアルがおかしな変換されて、いちいち書けないほど大変なことになりました。「ポスト秋田禎信」という謎の先入観の原因は、草河遊也であることにさっき気がついた。ビジュアルイメージって強いなあ。

メモ

2007年5月8日 読書
読んだー。
『【バベルの図書館 10】 蒲松齢 -聊斎志異-』
ホルヘ・ルイス・ボルヘス編纂・序文/中野美代子訳 イタリア、フランス、ドイツ、スペインで刊行された国際的出版物の日本語版。現代文学の巨匠J.L.ボルヘスが編集、各巻にみずから序文を付した、夢と驚異と幻想の全く新しい「世界文学全集」。ポー、カフカ、ドストエフスキーからアラビアン・ナイト、聊斎志異まで、文学のすべてがこの30冊のなかに! イタリア・オリジナルの装幀。  奇抜で甘美な物語の一大集成『聊斎志異』は17世紀の中国に生れた。民間伝承に材を得たこの怪奇譚集は、美と不可思議に満ち、世界四大奇書の1冊の名にはじない。『紅楼夢』の2つの挿話を併録した支那奇談集。

昨日ちょうど岡本綺堂の『中国怪奇小説集』を読み終えたところだったので、にやにやしました。
そういえばバベルの図書館、原語はなんだったんでしょう。イタリア・フランス・ドイツ・スペインで刊行された、って書いてあるけど、やっぱり英語かしら。意表を突いてスペイン語とか?

読んだ本メモ

2007年5月6日 読書
もはやいつ何を読んだのか不明になってきました。
家のあちこちに本が遍在している……。
ところで「いえ」の第一候補が「射得」になるような文章をわたし最近書きましたっけ。

『予告された殺人の記録』ガルシア=マルケス、新潮文庫
『サキ短篇集』サキ、新潮文庫
『沈黙/アビニシアン』古川日出男、角川文庫

記憶力と日本語力と視力の低下がはなはだしい気がする雨の日。
『オイレンシュピーゲル壱』角川スニーカー文庫
『スプライトシュピーゲル?』富士見ファンタジア文庫
冲方丁の、企画連動(シェアードワールド?)ノベル。

買ってきた日に読み終わったのにこの放置はどうなのー。
またしても購入時の日記のリンクを探すのが面倒な状況に。もういっそコピペでなんとかしようかしら。
そして面倒ついでに感想は2冊まとめて。

『スプライト』は1冊6話、『オイレン』が1冊3話。連載誌の関係なんでしょうが、同じエピソード分量で倍の話数かかってる『スプライト』がぐだぐだ。鳳が前に出すぎてて他の二人が妙に薄いしなー。読むときは『スプライト』→『オイレン』の順に読んだほうが楽しいですな。特に副長が。
『スプライト』の素敵ポイントを箇条書き。
・乙の可憐なかかと。
・冬真(吹雪と比較しての話)
・「ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ」(ルビ)の嵐。
・シャーリーン&ヘルガの大人女性組
ルビの嵐は斬新すぎて見た瞬間爆笑しました。冲方は記号多用で当たり前、とわかったつもりで読んでると、予想を斜め上に裏切られてカウンター直撃。
『オイレン』はじっくり1話ずつ練られた感じでとてもよいですね。特に二話の陽炎の「私/彼女」のエピソードが素晴らしくツボったー!年上の男に弱いなんて陽炎かわいいよ陽炎。意外とアホだよ陽炎。
ビジュアル的な話をすれば、もちろん涼月が一番好みなんですけどもー。
しかしスニーカーは最近寛大すぎないか。まさかライトノベルで「生えてない」を目の当たりにする日がこようとは思わなんだ。夕霧の虐殺具合とか本当に大丈夫なのか。
風に揺れるさらさらの短い黒髪/黒い切れ長の目/乳性石鹸のような白い肌。(中略)すらりとした脚に黒いピンストライプのガータータイツ/丸い爪先の黒いエナメル靴――愛らしさと唯我独尊のトイプードルの風情。
わかってる冲方丁!
わかってるを通り越して踊らされている自分が怖いです。
それにしてもおっさんが格好いいよおっさんズが。おっさんと美少女が素敵に書ける人は世の宝です。
乙一、講談社ミステリーランド

読んだのが去年の6月……。感想はあとで、と言いながら放置しすぎですよ。

http://diarynote.jp/d/47804/_0_340.html

該当記事にリンク張ろうとしたんですが、過去の日記についてはURL取り出すのがとても面倒であることがわかってあっさり挫折。
それもこれも感想を長いこと放置するからですよね。自業自得ですよね。わかってはいるんだ……。
以下未読の人をかけらも気遣わないネタバレ全開な感想。

オリジンーヌ氏が発音できなくて、「おりじんー、おりじんぬー、おりーじんぬー、あれ?」と試しちゃった人はわたし以外にもかならずいるはず……!
そんなささいなことはともかく。
怪盗ゴディバと、怪盗に挑戦する探偵ロイズ、そして主人公である少年・リンツの物語。
なんですが、のっけから主人公の父親は死ぬわ、移民呼ばわりされるわ、移民との混血児だからと差別されるわ、いじめっこは自分の純血にプライドを賭けている民族主義者だわ、おそろしくどす黒いエピソードてんこもり。しかもそれがなんでもないことのようにさらっと書かれているのがすんごい。どこが子供向けなのかと。
それでも少年があこがれの探偵の助手になれたあたりは幸せ気分で読み進めていたのですが、そのあとがまたひどい。
ああ、そうかこれを書いているのは乙一か。
緻密な伏線が物語終盤に向けて収斂していく流れがすばらしい。後半の登場人物たちの立場・イメージの大逆転は前半からは想像もしてませんでした。
子どもの憧れをあっさり破壊する乙一とんでもねー。

名台詞を吐くのはおもにドゥバイヨル。
「おれは年よりをそんけいしている。うやまうのはとうぜんだ。」
「おれの祖父さんは兵隊だった。勲章をもらった英雄さ。負傷したなかまを背おって銃弾のとびかう平原をかけぬけたんだ。敵もおおぜい、うち殺した。」
「おれにはその血がながれている。おまえみたいなけがらわしい移民の血じゃねえ。純粋でうつくしい血族だ。」
これで子供向けですよ?トラウマ本確定な内容であることは理解していただけると思いまー。
しかし作中で一番「いい」のはここ。
たしかにあいつはいやなやつだ。でも、死んでいいってほどじゃない。
さすがー!それでこそ主人公よ!
っていうか今まであれだけ理不尽な暴力にさらされてこれか。これなのか。
大人ってほんとどうしようもないなあと、少年たちの姿を見るとため息を通り越して呆れてしまいますけども。

それにしてもミステリーランドのハイクオリティ具合は異常。
全部読んだわけではないですが、今まで読んだものはすべて大当たりでした。
執筆予定に京極夏彦の名前があるのが、不穏な方向に楽しみです。
井上ひさし、新潮文庫。

とりあえず背表紙より引用。
文部省も国語の先生も真っ青!あの退屈だった文法がこんなに興味津津たるものだったとは。もはや教科書ではつかみきれない日本語の多様なる現実がここにある。一家に一冊話題は無限。古今の文学作品は言うに及ばず、法律文書、恋文、歌謡曲、新聞広告、野球場の野次まで、豊富かつ意表を突く実例から爆笑と驚愕のうちに日本語の豊かな魅力を知らされる空前絶後の言葉の教室。
感想書くのにぐぐったら、wikiに井上ひさしのページがあるのを見つけたのですが、すげえですね。よいしょっと。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E4%B8%8A%E3%81%B2%E3%81%95%E3%81%97
こんなところで米原万里の名前に遭遇するとは思わなんだ。日本語に興味があるなら、米原万里の本は超おすすめ。そして『修羅の棲む家』読みたい。

奥付によると文庫が昭和59年、1979年発行。単行本は56年ですってー。その当時を知る人は思い出しながら読むとよいですよ。
日本語についての軽妙なエッセイなのですが、著者の博覧強記が多岐に渡りすぎておそろしい。ものすごい勤勉な人なのに遅筆堂なんだ……。
学術的にもきっちりした本ですな。興味深くしかも読みやすい話題で知的好奇心がもりもり刺激されます。実例をあげるための引用先もすごい。野球場の野次やらスワッピングの交換相手募集の記事やら、普段から読んでいる新聞7紙やら。
個人的に、翻訳者によって日本語に取り入れられた外来語(と文法)のくだりが面白かったです。「〜や否や」が「as soon as〜」だなんて思いもよらなかった。ははあ、言われてみれば古文には句読点も擬人化もないよなあ。
あと、この時代から既に「日本語が乱れている」「オリコンチャートの上位は英語ばっかり」は言われていたのですね。おっかしー。今見たら件のオーストラリア人は卒倒すると思うデスよ。わたしも久しぶりにテレビ見たら、上位が見たことのない単語で埋め尽くされていて、どれが歌手名でどれが歌のタイトルなのかわからなくて思わず目を擦ったしな!

「政治家は字をいじるな、票でもいじってろ」に諸手を挙げて賛同したひとは、福田恒存の日本語教室を読んでにやにやするといいよ、いいよ、っていうか一緒ににやにやしよう。
旧かなは好きだけど、新かなとの間で困っちゃうという感性にはとても共感します。
京極夏彦、角川書店

公式で告知された発売日は、文庫『後巷説百物語』と同日の25日でしたが、こちらフライングでもう並んでいました。
初版にはおなじみカバー裏印刷があるので、フライングを知ると同時に逃さず購入。挟み込みのチラシかと思ったら、シリーズ解説書なんてものまで入ってましてよ。「怪」の宣伝と勘違いして危うく捨てるところだったぜ。何処で何が起こったか、一目瞭然の地図はとてもよいです。

御行の又市の若かりし頃を描く、時系列的に一番古い百物語。
必殺仕事人だ!ややこしい必殺仕事人だ!と大喜びしたのも束の間、「むしろ『マルドゥック・ヴェロシティ』だ……」と慄然といたしました。
大抵チーム結成直後までが一番幸せなときですよね。大仕事をするとその後が怖いんだぜ。主に読者が。
読み終えたあとは、そういえば祇右衛門装置ってどうやって決着つけたんだっけ?と、またシリーズを頭から読み直したくなります。
常々『続巷説』と『後巷説』は、先生と又市さんの壮大ならぶすとーりーだと思っているわたくし。そうかー、この後先生との出会いがあるのねー、としみじみ。また『続巷説』の「こんなのってないよ!」というラストを読み返したい。そして『後巷説』のラストで白いハンカチ握り締めて落涙したい。

問題は、巷説シリーズをどこにしまったのか自分でもまったくわからない部屋のありさまです。

1 2 3 4 5 6 7

 

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索