【バベルの図書館 8】 H・G・ウェルズ -白壁の緑の扉- ホルヘ・ルイス・ボルヘス編纂・序文/小野寺健訳 イタリア、フランス、ドイツ、スペインで刊行された国際的出版物の日本語版。現代文学の巨匠J.L.ボルヘスが編集、各巻にみずから序文を付した、夢と驚異と幻想の全く新しい「世界文学全集」。ポー、カフカ、ドストエフスキーからアラビアン・ナイト、聊斎志異まで、文学のすべてがこの30冊のなかに! イタリア・オリジナルの装幀。  夢と現実のはざまで破壊する1人の男を描いた名篇「白壁の緑の扉」。不思議な光をはなつ水晶球の物語「水晶の卵」ほか、「プラットナー先生綺譚」「亡きエルヴシャム氏のこと」「魔法屋」全5篇を収録。

【バベルの図書館 9】 メルヴィル -代書人バートルビー- ホルヘ・ルイス・ボルヘス編纂・序文/酒本雅之訳 イタリア、フランス、ドイツ、スペインで刊行された国際的出版物の日本語版。現代文学の巨匠J.L.ボルヘスが編集、各巻にみずから序文を付した、夢と驚異と幻想の全く新しい「世界文学全集」。ポー、カフカ、ドストエフスキーからアラビアン・ナイト、聊斎志異まで、文学のすべてがこの30冊のなかに! イタリア・オリジナルの装幀。  法律事務所を経営する「私」の前にあらわれた、癒しがたいまでに孤独な姿をしたバートルビー。生の徒労感を知り究めたかのごとき一代書人、世界からの疎外者バートルビーを通して描かれる人間悲劇の書。

次が『聊斎志異』なんですよね。すげ。ボルヘスの世界の広さに目を疑ったです。

『屍の王』

2007年4月1日 読書
牧野修、角川ホラー文庫

解説を東雅夫が書いているのですが、わたしどうもこの人と趣味が合わないようです。『怪談の学校』のときからそうじゃないかと薄々思ってはいたんですが、残念なことに勘違いじゃなかった……。
娘を惨殺され、失意の底に沈むエッセイスト草薙のもとに、かつての担当編集者から連絡が入る。小説を書かないか――。娘の供養にと書き始めた小説『屍の王』。しかし、かつて同名の作品が存在し、その著者が娘と妻を殺害し自殺していた事実が明らかになる。自らの過去を探す道程で明かされる恐怖とは……。
幻想ホラー最高峰、著者渾身の一作、待望の文庫化!

最高峰……。
著者渾身の一作……。
ぶっちゃけ『MOUSE』を読んだあとだとてきめんに「はずれ」に入る本だと思います。牧野修は当たり外れの大きい作家だなあ。
解説でほめちぎられている、イザナギ・イザナミの黄泉返りを下敷きにしたモチーフの数々ですが、ひねりなさすぎて浮いてます。
牧野修はこんな安直な引用で満足するような作家じゃないはずだ!『楽園の歴史』のクトゥルフ演歌(のような凝り具合)をもう一度カムアゲインー!と思わず解説に食って掛かる始末です。

「黄泉返り」それ自体よりも、「黄泉」にあたる場所でのひとびとの生活、ヨモツヘグイの「焼きオニギリの定食」が思いもかけない視点で新鮮でしたわー。ヨモツヘグイがオニギリ。赤提灯でビールの死人。あと幽霊船ビルの丸い扉は悪趣味のハート直撃。
真莉緒さんはホラー好きならではの反応がメタっぽくてよかったのに、出番が作中一箇所に集中しているので、使い捨てのごとき出番ばかりに見えましたよ。逆に泉さんと美沙さんは見事でした。

えげつない不幸とグロい恐怖の描写はちょっと右に出るものが思いつかない巧さなのに、むしろホラーは向いていないんじゃないかしら。ホラーよりも幻想・SFのほうが個人的に当たり本が多いと感じるのは、嗜好の問題かなあ。
一応文庫で出てる分は全部買うつもりですが、あらすじを聞いただけではずれの予感がするあれとかあれとかどうしよう……。
ホルヘ・ルイス・ボルヘス編纂・序文/川口顕弘訳、国書刊行会。

イタリア、フランス、ドイツ、スペインで刊行された国際的出版物の日本語版。現代文学の巨匠J.L.ボルヘスが編集、各巻にみずから序文を付した、夢と驚異と幻想の全く新しい「世界文学全集」。ポー、カフカ、ドストエフスキーからアラビアン・ナイト、聊斎志異まで、文学のすべてがこの30冊のなかに! イタリア・オリジナルの装幀。  シリウス星の超特大巨人と土星の超巨人が地球を訪問する「ミクロメガス」ほか、「メムノン」「慰められた二人」「スカルマンタドの旅行譚」「白と黒」「バビロンの王女」ゴーロワ的エスプリあふれる作品集。


取り急ぎ読了記録のみ。
上甲宣之、宝島社文庫

帯に、書評家が書いた解説の一部が引用されてますが、

「このバカさ加減(誉めてます)」

解説の一行目が

「なんてステキにくだらないんだ!」

これがすべてのような気がします……。
ありえない・くだらない・馬鹿馬鹿しい・先が気になってやめられない。
命がけでババ抜きをしなくてはいけなくなった登場人物が、みんな一筋縄ではいかない頭脳と肉体と特技の持ち主だったからさあ大変。「これどこの福本漫画?」ざわ……ざわ……。
そういえば先日読んだ『マルドゥック・スクランブル』もまる1巻分がカジノシーンだったなあ。
意外とみんな真面目に戦っていたので、後半からはゴーストチェンジが自分からゲーム復帰するためにしか使われなくなっていてちょっと残念。すごくいいルールだと思うんだけどなあゴースト。
「一連の動作が完璧にこなされたら、カードを取った方は何をされたのか、まったく分からなかっただろう」
これを見てポルナレフのAAが瞬時に浮かび、飲んでたお茶吹きそうになりました。むしろ台詞改変までやってのけた自分の脳みそがどうかしていると思った。
読み始めは、過剰な現代っぽさ(及び露骨なバカさ加減)に乗れずにもやもやしますが、一度乗ればノンストップでラストまで運んでもらえます。さすがに日本で二重人格はどうかと思ったけど。

以下簡単にまとめると、
「ざわ……ざわ……」「ポルナレフAA」「薫ブラックQ(レディ)はありえねーセンス」
フランツ・カフカ、池内紀編訳、岩波文庫

後回しにしておいた分を読もうと思って開いたら、読み終わってた。
そして「池内紀編」訳じゃなくて、「池内紀」編訳だったことに今気がつきました。
自分はもうちょっと訳者に敬意を払うべきだと思いました。
あらかじめ『城』を読んでおいてよかったです。ほんと「絶え間ざる延期」でもってできてますよねカフカ。
訳者あとがきによれば、「唐突に現実が揺らぎだす」ところがポイントらしいです。
感想はまたあとで。
古橋秀之、ファミ通文庫。

いきつけ書店にファミ通文庫の入荷自体がなくて、今日ようやく入手しました。想定の範囲外。
2巻で完結、ものすごいスケールのインフレと聞いていたので、どんなもんかと思いつつ読んだら、ラストのインフレはインフレのスケール自体が桁違いでした。
世界かと思ったら××××までいくなんて誰が思うよー。
ちょっとだけネタバレすると、→「因果律を」
ほんとすごいですよね。

1巻に比べると、ネタ元がアレな部分は大分減ったですね。みこみこナースと「ぶんだばー!」くらい?
個人的にはあと1冊かけてインフレして欲しかった。クララ投げっぱなしじゃん。全地球の兄とかも。
超河と超江とダルシムメイドが異常にツボ。なんでだろう。
冲方丁、ハヤカワ文庫。

読んだー!
1巻を読み終わる→次の巻に手を伸ばす→読んでる途中で物理的に力尽きる→翌日再開→2巻を読み終わる→3巻を読み始める→読んでる途中で以下略。
そんな感じで1日1冊ペースで読みきりました。
面白かった。極上エンターテイメントを惜しげもなく撒き散らして炸裂炸裂ぅ!
個人的に、エピソードの緊密さというか、全体の構成の緻密さ、各部の連結、原因と結果・過去と現在の複雑極まる錯綜という点で、完成度ははるかに前作(スクランブル)を上回っていると思います。だって『スクランブル』では、バロットとウフコックの邂逅→カジノで決戦→後日譚というふうにばらけちゃってる感じがぬぐえないのですもの。
今回は何処から何処までが、という区切り無しで頭の先からつま先のてっぺんまで絡みに絡んでそれはもう見事でした。
そんでこれが『スクランブル』の末尾にがっちり食い込んでるんだなー。
前日譚だからといってこちらを先に読んだら死ぬぜ!
そんな人はいないと思いますが。
あと、「脇役が主人公の話ー?どうせ脇役の物語なんだろ」と、油断してても死ぬぜ。ボイルド主役のエピソードですが、がっちり『スクランブル』主軸。ウフコック主軸とボイルド主軸でできた螺旋の柱がマルドゥックの柱である、みたいな。
一枚のコインの表裏といってもいいかもしんない。

ナタリアの毒婦だけど悪女じゃない運命の女っぷりがとてもよかった。
運命の女。それ以外にない。

そして今回もこれだけ書いておいて読了記録という情けなさ。
さーて冲方丁の本をさらえてくるですよ。
何気なく夕飯前に手に取ったらやめられなくて、そのままものすごい勢いで朝の4時までかかって3冊一気読みしました。
思ってたのと全然違った……!
マルドゥック・シティで繰り広げられる、血と硝煙と死体の饗宴、でも乾いてごりごりのハードボイルド、かと思ってたらさにあらず。
よく喋るかわいい万能兵器ネズミと、人形のような元少女娼婦の、最強少女ミーツ人外おっさんネズミの、戦うらぶろまんすでした。
うへ、らぶろまんすとか言っちゃった。
しかも、爆殺されかかった高級少女娼婦にしてカジノ経営者の愛人が、特務機関に拾われて命を助けられ、ついでに特殊能力をさずけられる展開に、テンプレな「特殊能力を得てよみがえった少女の復讐劇!」を想像したらそれも違ってました。
超ハイテンション・萌えあり燃えあり・博打あり・銃撃戦含む大立ち回りあり・運命の巡りあいあり・執着と殺し愛あり・ユーモラスな会話あり・ぶっとんだ生き物続出の、極上エンターテインメントでございました。
著者あとがきによると、SFじゃなかなか出版できなくて、いっそライトノベルで出しちまうか!という話があったそうです。こういうときライトノベル愛してると本気で思います。

主人公はウフコック(煮え切らない)――と思いきや、少女バロット(雛料理)。煮え切らないウフコックが金色の「よく喋る、かわいいネズミ」だと知ったときのわたしの衝撃たるや、夜中に「思ってたのと違うー?!」と叫んだくらいです。
これ知らないで詠み始めたほうが絶対いいと思うんだ(と言いながら書く)。
もうほんとウフコックかわいい、超かわいい。バロットももちろんかわいいんですが、全然種類の違うかわいさです。これは詠めばわかる。『十二国記』の楽俊がかわいいと思う人は一撃必殺で萌え殺されると思います。
いやー、なんか頭のなかで、ふかふかの金色ネズミがやけに具体的にイメージされるので不思議だったんですが、今解決しました。そうだ、楽俊だ。
不器用なおっさんと、美少女の組み合わせに「レオンもそういえばツボ直撃だったわー」と思っていたら、あとがきで言及されていて吹いた。

名前やたらたまごなのはなんででしょうか。
ウフコック(煮え切らない)
バロット(雛料理)
イースター(復活祭)
ボイルド(ゆで)
シェル(殻)
ハンプティ(ダンプティ)
などなど。
コミカルでユーモラスな場面になごみ、銃弾で銃弾を弾く、血まみれの撃ち合いに息を止めるほど緊張し、ネズミ一匹のぬくもりに涙します。

ここまで書いて実は読了記録であって感想ではないという(自分的に)すごい落ち。

『象られた力』

2007年2月20日 読書
飛浩隆、ハヤカワ文庫。

いつものことながら指が痛いので感想は後日。
さくさく読めました。楽しかった。
「象られた力」が抜群によかった。

『百鬼園随筆』

2007年2月15日 読書
内田百?、旺文社文庫。

最近余裕がないです。精神的な余裕つーか愛とか情熱とかそういうあらゆるものを打ち倒してなぎ払って乗り越えてゆくような力がないです。
要するに枯渇して冬眠中。
ホルヘ・ルイス・ボルヘス編纂・序文/矢川澄子・小野協一訳 イタリア、フランス、ドイツ、スペインで刊行された国際的出版物の日本語版。現代文学の巨匠J.L.ボルヘスが編集、各巻にみずから序文を付した、夢と驚異と幻想の全く新しい「世界文学全集」。ポー、カフカ、ドストエフスキーからアラビアン・ナイト、聊斎志異まで、文学のすべてがこの30冊のなかに! イタリア・オリジナルの装幀。いまなお世界中で読まれ続けているワイルドの童話に、貴公子の奇妙な運命譚「アーサー・サヴィル卿の犯罪」、売家に住みつく幽霊を震えさせてしまう愉快なアメリカ人一家の話「カンタヴィルの幽霊」を併録。


読んだです。まさかワイルド読んでほのぼのと幸せな気分になるとは思いもしなかった。
手が痛いので感想は今度。
古川日出男、角川書店。

すごかったー、ハードカバーで買ってよかった。
感想はあとで色々連想した書名を挙げて書こうと目論んでます。
ジャック・ロンドンもはじめて読みます。
そういえばホーソーンははじめて読むと思ってたら、はるか昔に例の金の星社のアンソロジーで読んでいました。意外と侮れない自分。
収録作品は「マプヒの家」「生命の掟」「恥っかき」「死の同心円」「影と光」の5編。

「マプヒの家」
ひとつの真珠を巡る話かと思いきや、ある小さな島に集った人々を襲う嵐の話。ジャーナリストとしても名を馳せた作者による、ノンフィクション作家の面目を失わせんばかりの嵐の描写がすさまじい。
実際にこんな嵐に遭遇したことがありそうですよね作者。
珊瑚礁輝く南の海が、半日足らずで地獄の様相を呈する様子が、ありありと目に浮かぶようです。
そしてマプヒ母超つよい。
「生命の掟」
語り手の老人が、昔狼の狩りのあとをつけたことを思い出すくだりで、一度倒れた鹿が起き上がった痕跡の場面で涙が出そうになりました。なぜかは自分でもわからない。
昔愛読した、雪原に生きる狼一家の物語を思い出したのですが、その本のタイトルが出てこなくて激しく悔しい。確かメスの仔に「ドーン(夜明け)」とか名前をつけておきながら、面倒くさいし覚えにくいので性格から取ったもっと簡単な名前を使ってた変な本。もしかして海外作品を、子供向けに書き改めた作品かも。
北の果ての冬の厳しさは、そのまま掟の厳しさに直結していますよね。
ノンフィクション作家顔負けの卓越した描写が冴え渡る。
「恥っかき」
背表紙の内容紹介で「拷問を免れる男の話」と書いてあって、ネタバレしてるじゃん!ダメじゃん!と思ったらさにあらず。
あまりに周到な法螺に、これは逃げ切るのか否かとどきどきしながら読むといいです。あらすじとラストに開いた口が塞がらなくなります。そして己の発想の貧困さを嘆じるがいい(すごい自嘲)。
すぐれた作家の発想力というやつは、死角をついて何事かを破壊して突破してゆく瞬発力に溢れていますよね。そしてその発想を肉付けする描写の分厚さは、作者の体験に支えられているのかもなー。
すごい経歴だ作者。
「マルセイエーズ」を「まじないの言葉」として歌う男の心情がいいなー。北の果て、極寒の地で、拷問を免れるための大法螺の中に、かつて辿ったヨーロッパの思い出が恋の歌が込められているこの落差。その落差を生んだ男の姿。
お前背中がすすけてるぜ!(全然違う)
「死の同心円」
原題は「ミダス王の従者」ですが、翻訳されたときのタイトルが秀逸だったということでこちらにしたそうですボルヘスが。
昔読んだ(またですすいません)推理小説で、シリアス度はさがりますがこれそっくりのものがあるのを不意に思い出しました。
確か「ブルーライオンズ」とか名乗る一団が、無差別に毒を盛って回ることで「脅迫」を行うという筋。この場合、日本国民全員が人質になるわけですが、監禁も誘拐もないのに人質というのはどうなの?という問に対して、探偵が「辞書的な意味合いで言えばばっちり人質です」と答えるんです。探偵は「こんな名前を名乗るからには、高学歴で教養のある集団でに違いない」と名前だけで犯人像を絞り込んでたな。「なんでそんなことがわかるのよ」って女性に突っ込まれて理由を答えてた気がする。
ちなみに毒が仕込まれたのはその辺の喫茶店のシュガーポット。これは確か。
あと、高村薫の『レディージョーカー』がビール会社相手にした脅迫ではじまる物語でした。
これら推理小説と一線を画すのは、彼ら「ミダス王の従者」がとてもオートマチックなシステムであることかしら。
しかし警察が無能だな。
「影と光」
まったく正反対の方法で姿を消すことを実現した二人の科学者の壮絶な争い?
むしろ幼い頃から天敵として対立する二人の最後の死闘が、姿を消す発明の成功にあったんじゃないかしら。
光を透過することによって透明化する理屈は理解できますが、光を吸収することによって透明化する理屈が、どうしても理解・想像できない。
どんなことになってるんだその「究極の黒」ってー。
と、ここまで考えて気がついた。ブラックホールって観察できてますがなんで?

最近感想を書くごとに、頭の悪さに拍車がかかっているのが判明して嫌な感じです。超頑張れ自分。
http://diarynote.jp/d/47804/20070124.html

あらためてちゃんと感想を書きます。
ボルヘスのセンスは、短編集の一発目に何を持ってくるべきか心得ているどころか、何を持ってきたら読者を撃ち殺せるのか知り尽くしてるとしか思えない輝きっぷりです。
「禿鷲」がトップバッターにあるのは周到すぎる。手放しで絶賛してみます。

「禿鷲」
カフカの短編を読むのがはじめてなので、編者が前書きで「短編はカフカを十二分にあらわしうる」というようなことを述べているのを半信半疑でページをめくりました。するとこれだー。
これだけ短いのに途中で、まさか『生きてるか死んでるかはっきりさせてください』『わかった、今はっきりさせる!(銃声)はっきりした!死んでるぞ!で、どうしたらいいんだ?』というジョーク落ちなのかと思ったら、予想以上にひどかった。
乾いていてシニックで、ばっさりとした感触がカフカ長編にはない目新しさで惚れ直しました。そしてあえて短編集をカフカの巻に編んでしまうボルヘスにも惚れ直しました。もうこのシリーズ読むほどボルヘスに愛。
「最初の悩み」
浮世離れしたブランコ芸人の悩みを主眼に、悩みの尽きることのない現実が描かれていてその落差に目をぱちくり。ファンタジーのようなおもむき。なんのつながりもなくエンデの『鏡の中の鏡』を連想しました。
「雑種」
猫と羊の中間の変な生き物。を、どう解釈するかで大変深刻な物語になるそうですが。『長靴を履いた猫』あたりを連想するのはまっとうなのかしら。
「町の紋章」
サイコー。これサイコー。バビロンが待ち焦がれる神の鉄槌。長編が絶えざる中断と延期によってできているという解説を読んだあとだと、この短さの中にどうしようもない延期が詰まっているのがわかってとても素敵。
タイトルは作者ではなく、遺稿から短編集を発行した編集者のセンスらしいですぜ。すごい編集。
「よくある混乱」
すっごい好き。平然と「ある日は10分で行けたのに、なにもかわらない道のりを翌日10時間かかった」とかシュールを通り越して幻想一歩手前なのに、やけにリアリスティックな文章がたまらない。
「ジャッカルとアラビア人」
ジャッカルがくわえてきた、小さな錆びた鋏に心臓を射抜かれました。「これにて幕!」など芝居がかった台詞もたまらん。
「十一人の息子」
十一人の息子を紹介しているだけの話。なのに短編。すごい。だんだん語彙が尽きてきて、すごいとか素敵とかしか言えなくなってくる。
「ある学会報告」
冒頭の、報告します、という宣言が抜群にいい。衝撃的で予想もつかない宣言からはじまる物語。
「万里の長城」
なんでドイツ人が、中国の皇帝信仰を理解しているのかそこが一番不思議。わたしはよく似た天皇制のある日本の人間だからまだ理解が及ぶのはさほど不思議ではないのですが、ドイツヨーロッパなのになんで中国のこの民衆のありようを見てきたように書けてしまうのかなあ。
あっ、ドイツも一時期帝政でしたっけ。
いやでも国同士が隣接しまくってるあのヨーロッパで、なんで中国の広大さを読み手が「そんなに広いのかー」と感心するほど書けてしまうのか。もはや想像を絶する作家のわざです。

文庫でカフカの短編集があるという情報を仕入れたので、買おうと思いました。
カフカは読みにくいので、はじめて読む人は長編より短編から入ったほうがいい、というかもっと短編の存在と素晴らしさについてアピールするべきですよいろんな人。
これを最初に読んでいたら、今頃までだらだらカフカーカフカーどうしようかなー、と言いながら集めてなかったと確信できる。

『Fate/Zero』

2007年1月27日 読書
はっはっはっ(爽やかに)。
奥付見たら発行が見事に「TYPE-MOON」になってて、もう言い逃れのしようがない。
虚淵玄+TYPE-MOONによる、「Fate/stay night」の公式番外編。

アニメイトとかとらのあなとか、その手のショップ及び公式通販で手に入るので開き直って感想書くよ!書くよ!
でもうっかりすると大変なことになりそうなので、色々と抑え気味に箇条書き。

・男性向け18禁であるのに公式最萌キャラが19歳ヘタレ男子(童貞)というありえなさ。虚淵玄超愛してる。
・アイリスフィール+男装セイバーという百合主従よりも上記のウェイバー主従の方が萌えるってどうよ。以下同文。
・イリヤ超かわいい。
・遠坂父が思ってたのと180度違う人でびっくりした。
・素敵嫌味教官VS駄目主席生徒の将来が楽しみ。
・ほんとウェイバー主従は思い出すだけでほこほこします。にやにや。
・脱稿がそんなに早かったのに、どうして誤字脱字誤植が直ってないんでしょうか。ちゃんと手入れされてない印象が拭えない。
・もしかして長い沈黙の原因はスランプでしたか御大。

全4巻とか次巻が3月とか、一部の人間を殺そうと目論んでるとしか思えない。
踊り踊って踊らされ。
ホルヘ・ルイス・ボルヘス編纂・序文/井上謙治訳 イタリア、フランス、ドイツ、スペインで刊行された国際的出版物の日本語版。現代文学の巨匠J.L.ボルヘスが編集、各巻にみずから序文を付した、夢と驚異と幻想の全く新しい「世界文学全集」。ポー、カフカ、ドストエフスキーからアラビアン・ナイト、聊斎志異まで、文学のすべてがこの30冊のなかに! イタリア・オリジナルの装幀。まったく逆の発想から透明人間になる方法をあみ出した2人の科学者が、透明状態のまま宿命的な闘争をおこすSF的物語「影と光」ほか「マプヒの家」「生命の掟」「恥っかき」「死の同心円」全5篇を収録。


ジャック・ロンドン初めて読んだ。
涙が出そうになった。
ホルヘ・ルイス・ボルヘス編纂・序文/池内紀訳 イタリア、フランス、ドイツ、スペインで刊行された国際的出版物の日本語版。現代文学の巨匠J.L.ボルヘスが編集、各巻にみずから序文を付した、夢と驚異と幻想の全く新しい「世界文学全集」。ポー、カフカ、ドストエフスキーからアラビアン・ナイト、聊斎志異まで、文学のすべてがこの30冊のなかに! イタリア・オリジナルの装幀。アフリカの黄金海岸で捕獲された1匹の猿が、さまざまな訓練・授業によってヨーロッパ人の平均的教養を身につけ、自らの半生をアカデミーに報告する(「ある学会報告」)。悪夢の世界を現出する短篇11篇。


収録作品は以下の通り。
「禿鷹」
「断食芸人」
「最初の悩み」
「雑種」
「町の紋章」
「プロメテウス」
「よくある混乱」
「ジャッカルとアラビア人」
「十一人の息子」
「ある学会報告」
「万里の長城」

カフカの短編なんてはじめて読んだ。
もうたまらん。
カフカもボルヘスもサイコー。

感想は後日詳しく気合を入れて書く予定。
上甲宣之、宝島文庫。

おお、上甲って一発変換できるんだ。ちょっと意外。

女子大生二人組が、旅行で訪れたひなびた温泉地。ひなびるを通り越して外界と隔絶したようなその村は、ミステリ愛読者ならその場で迷わず引き返したくなるほど怪しい村だった。

のっけから「今すぐそこを脱出しろ、さもないと片手片足片目を奪われて、”生き神”として一生幽閉されるぞ」という謎の電話がヒロインにかかってきて、その電話の通りにヒロイン・しよりを捕らえようと村人たちが襲い来る。
とっさに連想したもの→インスマウス大脱出行。
しよりの連れであるもう一人のヒロイン・愛子は、たまたま温泉から宿に戻るのが遅れたおかげで、村人から襲われることは避けられるが、正体不明の殺人鬼とトイレで荒木飛呂彦ばりの戦いを繰り広げることになる。
とっさに連想したもの→ジョジョ第三部のポルナレフ(解説にいわく、作者は執筆時第四部を特に意識してやったそうです)。
民俗学ネタで閉鎖した村からの決死の脱出というばっちりなつかみにはじまり、トイレで殺人鬼と機転を頼りにひたすら戦うアクションの大盤振る舞い。一度動き始めると全てがノンストップ。
なのにミステリとしての仕掛けはむしろ硬派ですなー。「誰の言っていることが本当なのか?信じるべきは誰なのか?」
この選択を間違えると、即デッドエンドの命がけの疑心暗鬼と葛藤。もちろん悠長に考えている時間はなく、選べなければやはりデッドエンド。嘘はないか矛盾はないか、考えても考えても、答えが出そうになると携帯が切れる。あるいは新しい材料が飛び出してくる。

……あれ?ミステリ?

読み終えてタイトルを見ると、まったく完璧なタイトルですね。
ヒロイン二人の行動は最後まで交差するものの一致せず、携帯電話はこれでもかと物語を引っ張る。
解説が内容を的確に表現してる上に面白いので、買おうかどうか迷ったら解説をどうぞ。解説できゅぴーんときたら、間違いなし。
愛子の喋り方や、「?!」が頻繁に使われるなど、最初は砕けすぎた文体にちょっと引っかかりを覚えましたが、しよりが部屋から脱出する頃には気にならなくなってました。
内容が面白ければこのくらいささいなことですよ。

続編も買ってきてあるので、とても楽しみです。

『殺人鬼』

2007年1月21日 読書
横溝正史、角川文庫。

内容とはまったく関係ないのですが、今度角川映画三十周年記念で映像化される『犬神家の一族』のスチルが、帯と挟み込みチラシにどーんと載っていました。

実におかしい。

作中の異様な空気を一身に担うあのマスクが、腹抱えて笑ってしまうほどおかしいものになってしまってました。
字面で見ると、それだけで異様な状況であることがわかって、薄ら寒い感じのする素晴らしい道具立てなのに、絵で見るとどうしてこうも間抜けなのか。読者のときはあった当事者である感覚が、観客になるとなくなるからだろうか。
いやもう笑った笑った。
「スケキヨ」(脚二本がにょきーんのアレ)も爆笑絵面になっちゃうのかしら……。

ここまで前振り。
表題作「殺人鬼」以外の収録作品は以下の通り。
「黒蘭姫」
「香水心中」
「百日紅の下にて」
全編、金田一さん出番です。
「黒蘭姫」は、黒蘭姫というネーミングがすごい。横溝正史はときどき、ものすごいネーミングをしてくるけれど、横溝正史なのでこれが「ありえない」ネーミングなのか「あり」なのかわからなくてとても気になります。百貨店にくる謎の女性客のあだ名に黒蘭姫。他の作家なら「それはない。絶対無い」と突っ込めるのに。恐るべし横溝正史。
ちなみにラノベなら「あーそうですよねそういうものですよね」と素直に納得します。
内容?黒いコートに黒いベールで顔を隠した、訳ありの万引き客と殺人事件という素敵な取り合わせでした。
「香水心中」
また軽井沢。信越線っていう単語を見ると郷愁をかき立てられます。入り組んだ血縁はいつものことながら、今回は登場人物が「道具立て」という以上に、何か際立っていてよかった。特に松樹と松彦の関係と人間が。
「百日紅の下にて」
これは……!「集まった人間たちで宴会をおこなう。その最中に毒で一人が死ぬ。さて毒を盛ったのは誰か?」という好きな人間にはたまらないシチュエーション。しかも、事件はその場で起こったのではなく、既にある解決をつけられた古い事件を「探偵が、事件に居合わせた人間から丹念に話を聞いた結果解決」というこれまた好きな人には垂涎ものの展開。
じゅるり。
あ、よだれ出た。
「グラスに毒を盛る」あるいは「毒を盛ったグラスをいかに標的に渡すか」に工夫を凝らすのがこのシチュエーションの粋ですが、これでもかこれでもかと色々な方法が出てきて、それを聞いた話だけで丹念に追っていくという展開がたまりません。
有栖川有栖の短編でもこんなのありましたね。古畑任三郎のグラスを渡すテクニックが理解できなくて酢を飲まされまくった懐かしい記憶。
で、表題作「殺人鬼」。
元夫という義足の男に付きまとわれる美しい女性と、たまたま知り合いになる推理小説家。顔の見えない犯人は、当然(思われていた人間と)別人というのはもはやお約束なのでネタバレにはならないと思います。真犯人が意外な人であるのはこれまた当然ですが、真犯人の別の顔が本当に意外でよかった。しかもその後更に逆転ありで事件だけでない全体のひっくり返しが仕掛けてあるのが好みのツボにどんぴしゃ。そしてそれを更にひっくり返す探偵素晴らしい。
こういう、事件だけでなくもっと上の段階でひっくり返してくれるサプライズ大好きだ。
あらためて冒頭から見返すと、計算された緻密な構成でため息が出ます。

「殺人鬼」の巧さと、「百日紅」の好みど真ん中さが特にヒットでした。

『眠れる美女』

2007年1月13日 読書
川端康成、新潮文庫。

眠らせたうつくしい娘を、夜な夜な老人に差し出す娼家。
ノーベル賞作家が力の限り描く変態とかエロスとか。

詳しい感想はあとで。
「片腕」が素晴らしく好みでした。

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